第三十八話 Day3…エリザベスの散々な一日
たぶん死んだ目になっている。アデレードもそうだから、私もきっとそうだろう。どうしてこうなったの?何が悪かったの?私、なにもしていない。師匠か?師匠のせいなのか?
何から説明すればいいのかわからないが、とりあえず、夕日に映える山桜は確かに綺麗だった。
――エリザベスたち一行は円卓での打ち合わせのあとにランチミーティングをさらに重ね、例の建設予定地に行くこととなった。
その馬車の中、商会主のメイソンから聞かされた問題についてノアと話す。
「建設反対運動と盗賊団、二つのハードルを解決しないといけないわけね」
「そういうことだね。ただ、盗賊団の方は、先日の大規模なキャラバン襲撃がすぐに解決されたお陰で問題はかなり小さくなったみたいだけど」
「……それも気になっているんだけど」
「どうしたの?」
確認されている情報からおそらくアデレード達に襲撃者たちは滅ぼされた。そう思えてならなかった。
襲撃者とキャラバンの護衛達、その広範囲に散らばった数十人を全員這いつくばらせた。さらに、謎の女騎士が暴れた。そんなことができるのって、どう考えてもあいつらでしょ。
「……何でもないよ。でも、ノアがドラゴンに『変身』すれば反対派も盗賊も逃げ出すんじゃない?」
ノアは苦笑いした。
「うん。たぶん建設作業員も逃げ出すね」
まあ、ダメだよね。
「…失礼します。もうすぐ馬車では入れない道に到着します」
御者が声をかけてきた。
さて、ついに山桜が見られる。早朝も良いけど夕日に映える山桜も有名。ちょうど到着ごろには良い景色となっているはずだ。
馬車を降りるとメイソンの案内を受けつつ、建設予定地に向けて歩き始めた。
「そろそろこの先の坂を越えると見えてきます。少し開けた場所で、正面に広がる景色は有名なのです。皆様からのご助力あっての事業です」
少し興奮気味のメイソンがそう早口で説明すると、坂の先を歩いていた護衛が急に戻ってきて、何やらメイソンに耳打ちした。それを受けたメイソンは慌てた様子で坂の向こう側に走っていく。
置いていった。どうしたの?
「…何があったのですか?」
「は、はい。どうやら反対運動をしている住民の一部が予定地に居座っていて、場所を確保しようとしていたメイソン氏の警備員ともめているようなのです」
護衛達と共にエリザベスとノアは坂を越えた。すると、メイソン達の正面にプラカードを持った数十人の反対派らしき人々が、綺麗な山桜の群生をバックに立ち塞がっていた。
え?
問題はそこではなかった。問題は群衆の中先頭に立つ見覚えのある連中だった。
何でアデレードたちが反対派の中にいるの?……あ、やっぱり有名なだけあって綺麗ね。まだ少し早かったけどもう少ししたら夕焼けが映えそうな……。
後ろの綺麗な景色に現実逃避しかけて、目を瞑って首を振った。
そうじゃない。
「君たち!ここはすでに王家、そして領主様より我がヘイゲン商会が購入した土地となっている。ここへの侵入は不法なもので――」
「ここは皆の場所だぞ!」
「そうだ!勝手に売買なんて、いくら王様や領主様でもあんまりだ!」
「……あ、王女様がみられたわ!エリザベス様!こんな横暴をあなた様が認める訳はないですよね?!」
なんか知らないおばさんが叫んでいる。
えー。いや、私に言われても……。それより何でアデレード、そっち側?
「エリザベス様、権力者としてふるう力はきちんと手順を踏むべきです」
笑顔の綺麗な女性がぐいっと前に出てきた。見覚えがあった。確か、レオール王国の王子様のメイド……。いや、後から聞いた話では軍人だったっけ?……確か、マリア。マリア・ヴァジュラパーニだ。
なんでレオールの軍人が前に出てくるの?それに、なんで私が責められるの?ていうか、王子様はちゃんと手綱を取ってよ。王子さ……まも目が死んでるね。
アデレードも止めて……うん、君もか。
ああ、良いことを考えた。私は鳩になって飛んで逃げるから、ノアがドラゴンになってこいつら全員吹き飛ばせば良いよ。
次回第三十九話 Day3…アデレードの散々な一日