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歴代最強の帝国皇女は敵国騎士と結ばれたい  作者: 永頼水ロキ
第二章
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第三十四話 Day2…温泉の効能

「待って」

「どうされましたか?」


 レオナルドを確認すると、口を開けたまま硬直していた。


「……あ、そうか。水着で混浴できる温泉があるんですね?」


 ルーカスは早口になっていた。


「水着はマナー違反ですよ?」

「え?」


 マリアだけが飄々と答える。


 えっと……。マリアさん?


「せっかくの機会ですから温泉効能にあやかろうと思いまして」

「効能?」


 異口同音にマリア以外から同じ単語が鸚鵡返しされた。


「ええ。知りませんでしたか?サルトニーの温泉は子宝の湯としても有名なんですよ。ですから、この機会に――」


 ……いや、堂々とこの場で言うこと?


「マリア!」

「なんでしょうか」

「頼むから止めてくれ、それ以上説明しないでくれ…」


 レオナルドの小さな悲鳴は、声量がないのに木霊した気がした。


 ――三つの馬車はサルトニーに向けて走っている。アデレードとユリウスの間にはあれから何とも言えない空気を残しまとったままだ。


 マリアさん!いくらなんでもひどいよ…。


 皆と旅程が丸被りしたことより被害が大きかった。アデレードの思い描いた楽しい旅はどこへ行ってしまったのか。こんなに計画がうまくいかなかったことは過去においてなかった。


 馬車馬は何も知らないので元気に走る。


「気を取り直して行こうか…」

「…うん」


 あれからまともにユリウスの顔を見ることができずにいた。ただ、気を使ったようにユリウスから声をかけてくれる。


 そうだよね。結婚ってそういうこともするわけで……。


 顔が熱くなっている気がした。アデレードのぼんやりとした旅行のプランとして、ユリウスが抱き締めずにいられないように誘惑してやるという気概で望んでいた。


 そのための二人旅。そのために頑張ってここまで来た。


 ただ、具体的に自分自身の気持ちを整理していたわけではなかった。何となくユリウスが自分に興味を持ってもらったり、どういう気持ちなのかそれに触れ合ったり、そういうことをしたいと思った。


 婚約者がいると聞いたときに感じたのは……怒り?焦り?


 自分自身が本当は何をしたかったのか分からなくなってきた。


 よっぽどマリアさんのほうが目的が明瞭。明りょ……いやいや、あれはちょっと。まだ結婚……してないわけであって……。


 ぐらぐら頭の中が煮えるようで、くらくらしてくる。


 そっと隣で手綱を取るユリウスを覗き見た。


 ……!


 ユリウスも真っ赤になっている。慌てて正面に向き直る。ごとごとという馬車の車輪の音だけ、あとは風切り音と遠くの鳥の鳴き声が聞こえる。


 ふと、あの時の事を思い出してしまう。白狐がアデレードの背中を押してユリウスと抱き合いかけた時の事。ユリウスの顔が近くて、綺麗な碧眼が自分を見つめていた。そして、慌てて離れてしまった。


 山祭りの日、ミニエーラの晩餐会、それからユリウスの街で、何度か彼と触れ合った。その度にアデレードの心臓や体のどこかがざわついて。今もそう。男性として彼を意識すると、どうしようもなくなる。


 ドキドキしている。


 読み物で知ってはいたが、貴族たる自分には縁遠いもの。この旅の企画や、ここまでの作戦はあの日、ユリウスに婚約者がいて、誰かのものになってしまうも思ったから考え出した。だから――。


 やっぱり私はもう。


 すうっと深呼吸する。


 何も変わってなどいない。何もまだ始まってもいない。そうだった。作戦はまだ何も結果を出せていない。自分自身でその答えを言っていた。


 この旅の目的はユリウスを落とすことなんだから。ユリウスに好きだって言ってもらうために来た。ケイトには「貴族の世界で結婚は家同士を結ぶ政治的な活動、恋愛とは無縁」って言っちゃったけど、それはそれだ。私はそんな枠にはまったりしない。


 まだユリウスの方をみる勇気は出ていなかったが、温泉街の道が後ろに流れていく様を見ながら、アデレードは自分が笑顔になっているのを感じるのだった。


 元気な馬車馬のお陰で、予定より早く着きそうだった。

第三十五話 Day3…サルトニー温泉街


※7/1:時系列がおかしい表現を直しました。

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