第三十三話 Day2…温泉街に着いたら
「せっかく皆揃ったから……ある程度決めて皆で動いてみようか?」
ユリウスと二人きりの旅行じゃなくなっちゃったけど、皆との交流も貴重だし……。
と、自分に言い聞かせ、アデレードは次の予定に頭を向けていた。
「……まあ、そうだな。たとえば夕食はそれぞれでとるとして、名所巡りは一緒に楽しむとか」
「山桜とかは賑やかに楽しむわけか…。まあ、悪くはないか」
ユリウスが合わせてくれて、それにレオナルドも賛同した。マリアも横で頷いていた。それを見てルーカスも頷く。
「そうですね、それも楽しそうです。クリスはどうしたい?」
「私は、その、そうですね。せっかくですから」
クリスティーナは渋々という感じだったが、ここで別れても結局は同じことだろうということで諦めた雰囲気だった。
…なんか…ごめんね。
「……その前に昼飯食べようか」
レオナルドの言うとおり、皆、さきほどの騒動でまだ昼御飯を食べれていなかった。ただ、このままここで時間をかけることはできない。
「ごめんなさい。すぐに移動した方がいいと思う」
アデレードやクリスティーナ、マリアもそうだが、目立ちすぎていた。キャラバンの護衛たちを巻き込みながら無理やり襲撃を止めたことで、一部彼らの反感を買ってしまった。また、興味を引いてしまった。
商人たちは情報も一つの商材だ。帝国の皇女が王国の公爵と一緒にいると知れれば、それ以前にベールに包まれていた皇女の素顔を知れるだけでも、それは非常に価値あることだ。『平伏』が皇族の魔力と知る商人がいるかもしれない。
幸いなことに今彼らは忙しい。襲撃してきた山賊を縛ったり、確認したり、次の動きかたを確認したりと世話しなく動き回っているのが見える。
「……そうだな。今のうちにこの場を離れた方が良いだろう」
「ですね」
皆、それぞれの馬車に戻って、すぐに温泉街の方へ走り出した――。
しばらく一緒に馬車を走らせ、少し開けた場所で休憩と遅めの昼食とする。
「……追跡はいなそうですね」
マリアは来た道を見つめながらそう言うと、アデレードに向き直る。
「アディさんと一緒に旅すると面白いことが起こりますね。嫌みではないですよ」
「えっと……ありがとう。そういえば、マリアさんにも訊きたかったんだけど」
「何でしょうか?」
「……マリアさんは帝国をどう思っているの」
ちょうど昼食の準備で皆離れた場所にいた。
しばらく口元に手をやりマリアは考えていた。視線はずっとアデレードを見つめたまま。そして、ふっと笑う。
「そうですね、嫌いです。敵ですから」
ドキッとする視線を向けたまま少し寒い気配がある。これはマリアが戦闘するときの空気だ。笑顔も戦闘中のもの。
「そう……」
「アディさんは好きですよ、人として」
「え?」
「帝国は嫌いですが憎んではいません。アディさんがアデレード皇女として立つとき、もしかしたら、私たちは対峙することがあるかもしれない。でも、例えそれで私や私の大切な人が失われても憎みはしない。それが国の兵としての私のあり方です」
マリアさん……。
「アディさんと敵対して私が生き残れるとは思っていませんが、それはそれとして足掻いてみるのも一つ面白そうかなと」
ま、マリアさん?笑顔が怖いよ。どういう意味なんだろうか。
「そんなところで何しているんだ、二人とも」
ユリウスが小走りで寄ってきた。
「えっと、何でもないよ。追手がいないか二人で見てた」
「ああ。大丈夫そうか?」
「はい。今のところ気配は御座いません」
ルーカスがその場で作ってくれた簡易のテーブルや椅子で昼食をとると、明日の予定を皆で話した。
「まずは朝の山桜だな。あれは外せない。ちょうど山間から朝日が昇ってきて、そこに重なる山桜は見ものだぞ」
「レオナルドさんは見たことがあるんですか?」
ルーカスは言いながらサンドイッチを口にする。
「ん?ああ、一回だけだが。クリスもいたが覚えているか?」
「まだ小さい頃でしたが覚えています。父上や母上と一緒に来た家族旅行で見ました」
「私はまだ見たことがなくて。ユリウスは?」
「まだないよ。一度温泉含めて行きたいとは思っていたけど、機会がなかったからね。そうすると、俺、アディ、ルーカスは初めてか。マリアはどうなんだ?」
「私も初めてです。ユリウス様と同じで是非一度見てみたいと思っていて、それで企画しました。レオ様と一緒にお風呂にも入りたくて」
………え?
次回第三十四話 Day2…温泉の効能




