第三十二話 Day2…旅の交差点
真ん中に大きな広場のような空間が井戸を中心に開かれており、大きな井戸からは水が溢れていくつかの水路に水を流している。水路は簡素なものでそれほど長くはない。
その周囲にキャンプをはる商人のキャラバンや、旅行客の馬車などが停留しているのが見渡せる。
アデレードは馬車を適当な場所に停めると、誰かが打ち込んだ杭に馬を繋いだ。そして、中央の大きな井戸の方をみる。
「思ったより人がいるね」
「そうだな。はじめはただの水呑場だったんだろうけど、今はそれなりに整備されて……そのうちきちんとした町になる場所かもしれない」
アデレードは水路に近寄る。
「見て、結構きれいな水」
「本当だな。井戸の横に採水場があるから、後で水筒に補給しておこうか」
「うん」
ランチボックスを馬車からおろし、二人で座れそうな場所を探す。
「あ、あそこ。ベンチが空いてるよ」
「あんなものまで誰かが作ってくれたんだな」
周りを見ればそういった「誰かが皆のために作った」物が適当に置かれていて、色々な人がそれを借りていた。そうやって少しずつ作られた場所なのだろう。
ベンチに座りランチボックスを広げる。青空の下、ユリウスと二人ならんでこんな風にゆっくりできる。それはいずれは「普通のこと」にしたいこと。
「いただきま――」
『キャー!!』
悲鳴!どこ?!
何人かの悲鳴が聞こえた方に、立ち上がったユリウスと体を向けた。何人か、不格好な鎧を着た男たちが見え、それらが馬車から逃げる人に剣や槍を向けているのが見えた。そして、何人かはこちらに走ってきていた。
「山賊か!」
商人のキャラバンを襲うなら道の途中とか、目立たない所が良いだろうに。よほど一度に襲える算段でもあるのだろうかと疑問を感じる。
アデレードは溜め息をそっとつくと、魔力を全身にそして周囲に展開する。
右手をあげてその力を――。
「ん?あれは」
ユリウスの見ていた方を見ると、山賊の男たちが何かと戦っていた。一瞬、キャラバンの護衛かと思ったが女型のフルプレートと独特の武器が目につく。あれは――。
「クリスティーナの戦乙女か!」
えー……。
ばごん!という、どこかの倉庫で昔聞いたことのある音が聞こえてそちらを見れば、また同じく見知った笑顔がここからでも判別できた。
「……なんでマリアさんまで」
「アディ!」
はっとしてユリウスを見ると、その方向に山賊が何人か襲いかかってくるのが見えた。
……二人だけの時間がー!
「ふざけんな!」
アデレードの声と共に、雑踏や金属音が鳴りやみ一瞬で静かになった。町中の山賊がひれ伏していた。ついでに、武器を持っていた護衛など、アデレードが敵か味方か判断しきれない者たちも巻き込まれていたようだったが。とにかく、武器を持つものはみなひれ伏していた。
さすがに戦乙女とマリアさんは外せたかな……。はぁ。
「アディさん!」
マリアが走り寄ってきた。
「どうしてここ……。その前に、ルーカス様とレオ様にかけた魔力は解いていただけると宜しいかと」
マリアがそっと目を向けた先を見れば、そこにはひれ伏したレオナルドとルーカスがいた。
あ!
「ごめん、とりあえず武装した人をターゲットにしたから」
――山賊は最近勢力を急拡大した連中で、ミニエーラ国内で大きな被害を出していた。ほとんどの場合は道中での単発の襲撃が主だが、今回はこの辺りにやってきたキャラバンのいくつかを同時に狙っての犯行だったらしい。
「レオもルーカスも同じ目的地だったのか……」
ユリウスは何とも言えない表情になっていた。アデレード自身も同じような顔になっていたのかもしれない。それを見て、ふて腐れたようにレオナルドが答える。
「こっちだって好きで合わせたわけじゃない!まさかクリスと同じ、さらにユリウスと同じって……キツすぎだろ!」
「そりゃそうだろうが、しょうがないだろう。お互いに行き先の確認をしていた訳じゃなかったし……」
ルーカスとクリスティーナ、それにレオナルドとマリアは婚前旅行として、例の温泉街、サルトニーに向かうらしく三組ともこの先の旅程はほぼ丸かぶりだった。
「……どうしようか」
「お互いに知らない顔をするのも変ですわね」
クリスティーナは溜め息をつきつつ、ルーカスに視線を向けた。ルーカスは全員を見渡す。
「せっかくですから、サルトニーまでは一緒に向かって、そこからは各々で行きたいところにというのが良いような気がします。ホテルは……まさか同じですか?」
確認すると同じだったので、全員がガックリと肩を落とした。
次回第三十三話 Day2…温泉街に着いたら