第二十七話 ユリウス貸し出し前
そわそわと…。ユリウスは窓辺によったり、椅子に座ったり、とにかく落ち着かない。
それを横目に見ていたレオナルドが遂に我慢できなくなった。
「おい!落ち着け!」
「ん!?あ、ああ。そうだな、そうなんだよ」
「なんだそれ…。それで準備はできたのか?」
「いや、アディが準備すると言っていて」
国王の命令付きでユリウスの一週間貸し出しと、アディとの旅行が決定した。旅先はレオール王国内陸の大きな湖がある観光地だ。
「二人きりってわけでもないんだろ?」
「……あ、ああ。アディの護衛が一人」
邪魔だなという思いが一瞬よぎって、首をふって頭の中で一人否定する。
「そういえばレオも休暇を取るんだったか?」
「ああ、帝国の姫がこっちで旅行をしているなら、まず俺達の仕事はありえないだろ」
確かに。
「だから、今のうちに婚前旅行に行っておこうかと」
あのあと、王家、コールプス公爵家、アーキテクト公爵家とヴァジュラパーニ家による話し合いが行われて正式にそれぞれの婚約が固まっていた。
レオナルドはマリアに婿入り、ルーカスがクリスティーナに婿入りすること。少し期間をあけてから正式に発表し、その後それぞれ結婚式や婚姻届が成されることとなった。
「レオはいつ出掛けるんだ?」
「ちょうどそっちと同じぐらいのタイミングだな。二人は国内だろ、こっちは国外を予定してる」
「そうなのか、どこに行く予定なんだ?」
「マリアが計画を進めているんだが、サプライズにしたいらしくて詳しくはまだ知らないんだ」
マリアが行きたかったところ、か。どこだ?
「そういえば、クリスとルーカスもどこかに旅行に行くと言っていたな」
ようやく認められたから二人の時間を多く作りたいのだろう。ユリウスは自然と笑みがこぼれた。
「まさか俺達の行き先と重なることはないと思うが」
兄妹で恋人との旅先バッティングは、まあ、なかなかきついものがあるな。そういえば、アディと行く予定の湖には貸しボートがあったはずだな……。
「……おい、いい加減おちつけよ、ユリウス」
「いや、まあ、そうだな」
「だから、なんなんだよ」
思えばリリーとこういった旅行には行ったことがなかった。というか、恋人らしいことは一つも出来てなかった……。いや、今リリーを思うのはダメだ!
うろうろと、引き続き落ち着かないユリウスを、レオナルドは呆れた視線で追いかける。
あ、そうだ。受け取りにいかないと!
――ユリウスは仕事を終えた帰り道で、とある場所に立ち寄ることにした。
そこは、ユリウスにとって当然馴染みのないブティックの一つ、スーザンに紹介してもらった彼女の馴染みの店だ。そして、これで二回目。
カランカランと、ドアにつけられたベルが鳴ると、奥から店主の女性が出てきた。
「あら、ユリウス様。タイミングバッチリですね!」
ぱんと手を叩き、もう一度奥に戻って、すぐに出てきた。
「できてますよ!さあ、こちらです、こちらです!」
「あ、ああ。ありがとう。確認させてもらうよ」
興奮ぎみの店主は、それを革のケースの上に広げた。少し照れ臭いがスーザンのアドバイスもあり、それは二人の瞳の色を模していた。
「確かに良くできているな。魔力持ちが加工したのか?」
「いいえ!腕の良い宝飾品作りの職人が何人もいるんですよ!」
「なるほど、凄いな手作業だけで」
「……ユリウス様、民のほとんどは魔力に関わることはなく、皆自分の両手で生活しているのです。手作業事態はすごい話ではないのですよ。すごいのは職人技ですね、この辺の細かいディテールなんかは魔力でも無理でしょう!」
「……そうだな。確かに」
「それにしてもよくこの石が手に入りましたね!」
ブラックダイヤモンドがキラキラ光っていた。
「ああ、上手いこと手に入ったんだ」
――店主の長話に付き合わされて、ユリウスが邸に戻れたのは随分と暗くなってからだった。
帰り道、街灯の一つに群青の小さなジュエリーケースをかざした。表面のベルベットがキラキラしていて、このケースだけでも満足感があった。
早く見てみたいな。
これを渡したときのアディの顔を想像して、また、そわそわしながら家路についた。
次回第二十八話 Day1…サプライズ