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歴代最強の帝国皇女は敵国騎士と結ばれたい  作者: 永頼水ロキ
第二章
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第二十一話 仮面舞踏会のその先に

 主催者が書かれていない封書の封蝋には熊の紋様が刻まれていた。中身を開けると簡単な案内図とカードが一枚入っていた。カードはタロットカードで「吊るされた男」。文字は一言もない。


 空には満月がはっきり見えて星も綺麗に光っていた。会場となるイーサン第一王子の邸の一つ、その正面に馬車が並び、そこから仮面を付けたきらびやかな人々が降りてくる。


 イーサン第一王子主催の仮面舞踏会がこれから始まる。


「招待状を拝見します」

「どうぞ」


 アディの隣に立つティアがカードを門番に渡した。門番は表裏を確認すると笑みを浮かべる。


「確認いたしました。どうぞお入りください」

「ありがとう」


 中に入るとすぐに広がる玄関ホール、ここで舞踏会は開かれるようだった。ダンスするスペースや、脇にテーブルが並んでいた。おそらくは他にも広間はあるとは思われたが、奥の広間は別の目的があるからだろう。


 今回の招待客は貴族、商会、おそらくは他にも色々な立場の人間がいるのだろうが、仮面をみな等しく着けていて判別は難しい。


「こんばんは。マルーンの君」


 赤い猫の紋様の入った仮面を付けた女性が横から声をかけてきた。スーザン・タイアード。


「こんばんは。子猫(キトン)

「ご機嫌いかがですか?」

「もちろん、こんなに素敵な方々に囲まれていますから。ああ、そうでした。この前いただいた"紅茶"はとても美味しかったです。また融通頂ければ幸いです」

「ごめんなさい。あれはもう手に入らないと思います。先ほど畑が燃えてしまいまして」

「まあ!それは大変でしたね」

「いいえ。よくあることです。そういえば、良くできた人形をお持ちとか。ぜひ見せていただけませんか?」

「ああ、それならきっと本日の目玉になっていますよ。ご覧になればすぐにわかります。金色の長い髪とブルーの瞳で、とても大きく魅力的ですから」


 音楽が流れ始め、何人かが踊り始めた。それを見てアディは動き出す。スーザン(キトン)も後ろについてきた。ティアが隣に歩調を合わせ、その後ろにカサンドラが続いていた。と、カサンドラが近付いてきて耳打ちしてくる。


「『診断』したところ、奥に立っている金色の龍をもした仮面と白いスーツをきた男がイーサンです。そのとなりに立っている黒とガラスを配した仮面の男がメイナードです」


 視線だけ動かしてアディも確認した。


「アルフレッドは見当たりませんでした」


 イーサン第一王子とメイナード・ファクツ侯爵は表向きの仮面舞踏会に参加している。つまり、もう一つの会場にはファクツ家の家令アルフレッドがいるはずだ。想定通りだった。


「二人の側にティアは控えて。タイミングを見て動いて」

「御意」


 横にいたティアが離れ、イーサンとメイナードの側に歩いていく。


 アディたちはそのままホールの奥の扉から中に入り、廊下の先にある大きな扉の前まで進んだ。その正面に立つ黒服の男にカードを見せると、中に案内された。


 案内された広間には椅子が並べられ、正面にある程度の広さのスペースが確保されていた。大きなパーティションで部屋全体が一部区切られていて、そのスペースとの間に簡易の戸口が見える。


 適当な椅子を見つけて、スーザンとカサンドラと三人で並んで座った。後ろの席に護衛のブルックが座る。


 正面右手に講演台が置かれていて、そこに白い仮面を着けた男が立っていた。彼は手元の紙面を確認している。白髪が一房ゆれていた。


 しばらくすると椅子がうまり、こそこそと話し声が会場に広がっていた。


 ……コンコンと、講演台から木槌を叩く音が聞こえ、会場が静まり返る。


「皆様、本日はケルト商会主催のオークションへご参加下さり、ありがとうございます」


 白い仮面の男、アルフレッドが声をあげた。ついに、闇市が始まる。


「本日は――」


 ラインナップは孤児院から引き取られた孤児が中心だが、中には大人も混じていた。奴隷とされた者達のリストが紹介される。


 紹介された者たちは事前に聞かされていた人数で在庫の全部だった。その後、パーティションの扉から首輪と手錠をされた奴隷たちが鎧を着た男に連れられて出てきた。


 彼らにはそれぞれ番号が振られていて、その番号ごとに競りがはじまるようだった。


 そして、目玉となる彼女はいきなり最初に呼ばれる。


「さあ、これは中々手に入らない。最高品質の商品です」


 すぐに何人かの仮面の男が手をあげて落札しようとしていた。嫌な熱気がそこにはある。


「確かに直ぐに分かりますね。大きなお胸で…」

「彼女だけはそのままの姿なんですよ。他の商品もすでに入れ替え済みですが」

「……なるほど。すごいですね、これが土竜の力」

「それもありますが、合同作戦ならではかと」

「……今後もご贔屓にしていただければ幸いです」


 スーザンはそういうとアディに笑いかけてくる。確かに今回の件でタイアード商会との繋がりを持てたのは良かったと思った。


「ええ、ぜひ」


 最後まで分からなかったのは麻薬などの物品倉庫だ。今回の作戦でそれを明らかにして潰す。


 会場では目玉商品を競り落とした男に拍手が贈られていた。アディもこれから何人か適当な商品を落札する。トレイサー家を巻き込んでおいた布石を生かす時がきた。手元の金貨に目を落とす。


 奴隷商人トレイサー家の魔力は『首輪』。マーキングした者や物品の行方を何処までも追うことができる。予め渡す予定の金貨に仕込んであった。支払われた金貨の行き先は物品倉庫だろうことまでは突き止めていた。


 この一手で終わり。


 アディは手をあげた。そして、落札の木槌の音を聴く。


 …チェック。


 心の中で"王手(チェック)"をかけながら、アルフレッドを見ていた。

次回第二十二話 チェックメイト

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