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歴代最強の帝国皇女は敵国騎士と結ばれたい  作者: 永頼水ロキ
第二章
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第十三話 狩猟祭の開幕

 ユリウスは予定通りクリスティーナを伴って狩猟祭の会場にやってきた。そこは森林公園としてある程度人の手が入った広大な土地で、街が一つ収まる広さがあった。

 その森林の入り口の広場には、大きめのテントや調理器具を備えた特殊な馬車がいくつも停車し、華やかな飾り付けが各所になされていた。


 開催者であるファクツ家当主のメイナード侯爵は、開会の挨拶に立った。


 相変わらず無表情だな。


 イーサンやメイナードは貴族らしく様々な催しに積極的に参加する。しかし、あまり誰とも深く関与しない。基本的に部下に任せ、自らが表立って動くことはない。

 メイナードの娘であるイーサンの婚約者と先日踊ったが、ユリウスは彼女にも似た印象を持っていた。三人に共通するのは自分に向けられる「無表情」だ。そこには取り付く島もない。


 いつから……ああ、この狩猟祭に俺が出るようになってからか。


 何回か連続してイーサンより大きな獲物を取った。具体的にいつからということは記憶に無かったが、いつの間にか兄と疎遠になっていた。気が付くと、対立派閥となっていた。ユリウスが何かをしたつもりはなかった。


 ガイウスとアディの関係にも似ているのかもしれないな…。


 挨拶が終わると、運営する部下が説明を始めた。執事服を着ており覚えのある顔だった。その男は額真ん中から一房の白髪を左に流すようにした髪が印象的だ。彫りや皺が深く、イーサン達と違い怒っているような顔。


「皆様、本日もファクツ家主催の狩猟祭にご参加ありがとうございます!私はファクツ家の家令を勤めております、アルフレッドと申します!僭越ながら私より狩猟祭のルールについて説明させていただきます!」


 ユリウスは隣に立っていたクリスティーナを見た。


「あの男が主に窓口となって色々と動いているはずだったな」

「知り合いの商人やマリア様の話ではそういうことでしたわ」


 ふと会場奥に目を移すとマリアの姿が見え、隣にファクツ家次男も見えた。確か名前は――


「あ、肩を抱きましたわ!」

「手が早いな。ただ…」


 マリアは笑顔だったが、つまりそういうことだ。ふと気になってユリウスは周りを見渡した。すると視界にレオナルドが入った。その顔は紅潮していて、マリアと次男のジャックを見ている。


 ん?


 レオナルドの隣にパーマがかかった栗色の髪の女性が見え、ユリウスは"マルーンの君"の右隣の男が気になった。おそらくは彼女の護衛と思われたが、ユリウスには見覚えがある気がした。


 どこかであったか?


 その男は帝国人らしく黒髪で、やせ形の顔立ちだが油断ならない空気を纏っていた。一見して弱そうだが矛盾した雰囲気を持つ男。


 …そうか、エクスだ。エクスに似ている!


 よくよく見ればそっくりだった。だが、本人より少し身長が高く白髪が目立っていた。


 "マルーンの君"に視線を戻す。彼女はその名の通り、栗毛で帝国人らしくなかったが、染めている可能性もあった。脱色すると黒髪はああいう色になる。その時、彼女と目があった。ぱっとそれをはずして、元通りアルフレッドに視線を戻す。


 気付かれたか…?


 彼女は目が大きく、美しいというより少し幼い印象だった。表現すると可愛らしい雰囲気だとユリウスは感じた。美人に系統があるなら、アディやマリアとは異なっていた。どちらかといえばクリスティーナに近い。そうユリウスは感じた。


 あの男がエクスの血族だとしたら、それを護衛としている"マルーンの君"が只者であるはずはないな。


 * * *


 ルーカスは見つめていた。二人の姿を。


 この狩猟祭にはもう一つのイベントが用意されている。


 それは、参加した女性に獲物をプレゼントし、それを受けとれば婚約と見なされるというもの。一人で参加している独身女性もいて、男性からのアプローチを待っている。


 もう一つ裏のイベントもある。それは、参加している女性に対して、エスコートした男性とは別の男性が、より大きな獲物を取ってプレゼントできるというもの。


 さすがに既婚者には出来ないが、婚約者を奪える可能性があった。女性側がそのプレゼントを受けとれば、「婚約破棄と同時に新たな婚約が結ばれたもの」と周囲は認知することとなる。それは王家や諸侯による黙認だった。


 "狩猟"という言葉にかけているのかもしれないが、品のないやり方で、以前のルーカスなら決して関わることもないことだった。だが、この方法ならば彼女を奪える可能性がある。


 ユリウスよりも大きな獲物を取ること。そして、それをクリスに。


 受け取ってはくれないかもしれない。クリスティーナは真面目で、父親の言い付けを守っていた。それに、彼女自身もユリウスを好いているのかもしれないと、ルーカスは自分に自信があるわけではなかった。ただ、長年の彼女に対するユリウスの仕打ちに、もはや我慢ならなかった。


 だが、どちらにしてもまずは狩猟を成功させねば話にならない。


 そう思っていたときだった。


「おはようございます」


 後ろから声をかけられ、振り返った。そこに黒縁メガネをかけた茶髪の、そばかすが目立つ小柄な女性が立っていた。隣に、その女性の倍はある大柄で厳つい男もいた。腰にサーベルをさしていて護衛だとわかる。


「私になにか?」

「ルーカス・アーキテクト様。失礼を承知でご挨拶を。あたしはスーザン・タイアードと申します。タイアード商会の」


 ルーカスは眉をひそめた。アーキテクト公爵家には、よく商人がその繋がりを求めて不躾にやって来ることがある。それは、アーキテクト公爵家の財力による投資や魔力を頼るためであることがほとんどだ。


「これから狩猟の準備に入るので――」

「ユリウス殿より大きな獲物を捕りたいのですよね?」


 何?!


 追い払おうとしたルーカスの言葉を、スーザンはとんでもない言葉で遮った。


「なぜ――」

「ルーカス様、この世の中は相互援助で成り立っているとあたしは考えてます。商人らしく取引したいのですよ。いかがですか?」


 挑発的な視線を、そのメガネの奥からルーカスに向けてきた。


「…何が対価なんだ」

「さすが、話が早いですね。ルーカス様にとっては簡単なことでございますよ」


 スーザンが耳打ちして伝えてきたその対価は、確かにルーカスには簡単なことだった。

次回第十四話 狩猟祭~レディサイド

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