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歴代最強の帝国皇女は敵国騎士と結ばれたい  作者: 永頼水ロキ
第二章
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第五話 ダンスとチェス

 哀れな親友が腰をさするのを視界の隅にとらえつつ、ユリウスは何となくマリアの作戦が分かった。要はクリスティーナがやろうとしていたことだ。


 レオナルドを投げ飛ばしたマリアは、そのまま会場の隅に下がり、飲み物を使用人から受け取った。何事も無いかのようにその顔は笑みを浮かべていた。


 ヴァジュラパーニの三女は、というより、三姉妹の破天荒は元々有名だった。しかし、いずれも才色兼備で魔力量が多いことも合わせて有名だったため、いずれの陣営もほしい人間である。唯一結婚していない三女が恋人を投げ飛ばしたとなれば。


 レオの浮気グセも有名。この機会にマリアを引き込もうと思うかもしれない、か。


 気を取り直した音楽隊の指揮者が、指揮棒をカツカツならして演奏開始を合図した。ユリウスとクリスティーナはダンスを踊る。さすが、完璧令嬢と言われるクリスティーナで、ユリウスのリードもあるが完璧なダンスを披露する。


「あまりこういう場に出られていらっしゃらなかったので、ダンスのリードの仕方などお忘れかと思っていました」


 クリスティーナはそっぽを向いたまま、そうポツリともらした。


「そうだな。だから、これでも練習してきたんだ」


 クリスティーナはユリウスを見ると、瞬きを何度かして驚いていた。


「この日のため?」

「ん?ああ、もちろん。君に恥をかけるわけにはいかないだろ」


 さっとクリスティーナはそっぽを向いてしまった。またいつものように眉間に皺がよっていた。ユリウスはそれを見て、少し昔を思い出して困ってしまっていた。


 ダンスを踊るなか周りにも気を配っていると、マリアに近づくファクツ家の令息が見えた。作戦は成功したらしい。


 だが、もう少し目立たないやり方や、レオナルドが傷付かないやり方がなかったのかは疑問だ。「ついでに晴らした日頃の恨み」ではないことを祈る。


 一曲目が終わった。この後も何曲も続く。


 次の相手は決めていないが、最後にイーサンの婚約者とユリウスは踊る予定だった。最初と最後は大きな意味があるためいつもそうしていた。なお、イーサンはクリスティーナと踊ることになる。


 クリスティーナと挨拶して離れると、ふと、外縁のテーブルの一つでチェスを嗜む女性が目に止まった。


 その女性は地味な雰囲気だったが、相手の男には油断ならないものを感じた。近づきその勝負を見てみると、驚いたことに女性の方が勝っていて、ちょうどチェックメイトしたところだった。


「一戦してみますか?」

「ん?……ああ。ぜひ」


 女性は顔を上げてユリウスを勝負に誘ってきた。黒縁のメガネに茶髪、魔力は感じない。向かいに座っていた男は静かにその場をユリウスに譲り、女性の横に立った。


「初めまして、あたしはタイアード商会のスーザン・タイアードと申します。こちらは護衛のブルック」


 ブルックは黙ったまま一礼した。体格は大きく、無骨な顔立ちで頬骨や顎も大きい、いかにも軍人あがりという感じがした。タキシードが似合っていなかった。


 タイアード商会はレオール王国とディスタード帝国を交易することが許されている大商会の一つだ。戦前から海上輸送を行っていたが、戦争時にその船舶の融通や物資輸送を両国相手に行い、一気に勢力を伸ばした。本拠地は二大国にくみしていない永世中立国にある。商人たちの取り纏めもしている商会ギルドの長でもある。そして、とにかく何事も中立を貫いていた。


「失礼。私はユリウスという」

「では、先攻はお譲り致します」


 不敵な笑みを浮かべて挑発的な物言いだったがユリウスは気に入った。


「いや、レディファーストですよ」

「承知しました。ではありがたく――」


 * * *


 またやっちゃった!


 自分の性格は分かっている。なんども反省するのだが、ユリウスを前にするとクリスティーナはどうしても「ああいう態度」をとってしまう。きっと可愛くないと思われてしまっているとクリスティーナは焦って、そわそわと飲み物を口に入れて飲み込んだ。


 二曲目が終わりに差し掛かった頃、ユリウスをみればなぜか見知らぬ女性とチェスをしていた。


 誰?


 側に寄ろうとしたときに、正面に現れた幼馴染みがその歩みを止めさせた。


「クリス、次の曲は私と踊ってくれないか」

「ルーカス様」


 ルーカス・アーキテクト。レオール王国の二大公爵家のもう一つ、その公爵家の次男。クリスティーナより二つ年上で幼いころはよく遊び、そして――。


「分かりました。宜しくお願い致します」


 ルーカスは頷くとクリスティーナの手を取り、二人は三曲目の始まる少し前にダンスホールの中央に立った。ふと横を見るとレオナルドが見えた。


 お兄様……。懲りませんね。


 パーマがかかった栗毛の女性とレオナルドは向かい合っていて、同じくダンスを踊り始めるようだった。ダンスで回りながら確認すると、なるほどマリアが会場の外に出ていたようだ。


「クリス、こちらを見てくれないだろうか」

「申し訳ありません。ルーカス様」


 ルーカスはいつもの真面目な顔だったが、一瞬瞳がゆらいだ気がした。


「どうかされましたか?」

「昔のようにルークとは呼んでくれないんだな」


 え?


 三曲目は曲調がゆっくりで、周りもリラックスした雰囲気で踊っていた。しかし、クリスティーナとルーカスの間には小さな緊張感があった。


「君が未だにユリウス殿との婚約を破棄していないのは知っている。だが、ユリウス殿は他の女性にうつつを抜かし、亡くなった今も忘れられずにいる」


 クリスティーナが慌てて反論しようと口を開くと同時に、ルーカスは彼女をダンスのステップに合わせて抱き寄せた。


 クリスティーナはただ目を見開くことしかできない。


「そんな男に君を任せたくない」


 真面目で普段物静かなルーカスの声は、少し震えていた。

次回第六話 それなら私が確認します

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