第三話 アデレードの見た夢
暗い闇の中、誰かが自分を抱きかかえている。
波の音だけが聞こえる。
水の上なのに。水の上に立っている?
…誰なの…?
ずっと遠くまで、波立つ海が広がっている。なのに、ここだけぽっかりと波がない、静かな湖畔のよう。
三日月が空に大きく浮かんでいる。
私、死んだの?
頭がうまく働かない。
うっすらと目を上に向けると、自分を横抱きにしている人物の顔が。それは、よく知っている顔のように見えた。
先生…?
あり得ない光景。あり得ない状況。アデレードはもう一度目をつぶった。そうすると、世界は暗転して別の世界に変わる。
それは過去に見た風景だった。
月は満月に変わる。
あれはいつだったか。
宮殿の片隅で女の子が泣いている。女の子は私だ。
『油断してはならない』
お父様はそう言っていた。でも遅かった。友達は、友達じゃなかった。
『お前は誰より強くあらねばならない』
お父様は誰も見ていないところでは厳しい。お兄様も知らない。
先生と女の人が、お父様の隣に立っているのが見える。
『時が来れば。皇女こそが、この――』
女の人が語る言葉は遠くに消えていく。風景も一緒に溶けていく。
お父様が悲しそうな顔をしているのが見えた。
次回第四話 騎士は記憶喪失の彼女を救う