第二十四話 そして知らぬところで
――次こそはきっと上手くいきます。
ユリウスは軍人として真面目に訓練しており、その辺の男より強い。チャラチャラした軽い男ではないことをアディに示してもらう。そう、マリアの作戦は続いていた。
第二ポイントは山祭りのイベント、男達の力比べ会場である。
町の中心、大きな公園広場でそれは開催されていていた。円形の公園の周囲には、ホテルやレストランが入った四階建て以上の大きめの建物が軒を連ねている。
マリアは事前に予約しておいた、そのレストランの一つ、4階テラス席から望遠鏡を覗いている。イベントへのエントリーをする二人を見ていた。
このイベントは、巨大な岩をピッケルの一撃でどれだけ割れるかという競技で、岩の弱いところの見極めも必要になる内容であった。力と技の足りない参加者の男達に代わって自分がそのピッケルを振りたいと、そこはそうじゃないとウズウズしながら、両手に力を込めて観戦していた。
「私も参加したかったですね…。ん?」
いなかった。
最後の選手が競技を終えたのにユリウスが出場してこなかった。夢中になって観戦していたマリアは、実は参加していなかったユリウスに気が付かなかったのだ。
なるほど、油断させておいて私を撒きましたか。
マリアは静かにテーブルのカップを口に運んだ。
* * *
イベントに参加しようと言われた時、アディはびっくりしたが同時に楽しみだった。しかし、ユリウスはなぜか参加エントリーだけして、すり抜けるようにイベント会場裏から抜け出した。
ユリウスに手を引かれて鉱石街の山側に進む大階段に来ていた。引かれ流れる景色の中で、ユリウスの髪が揺れているのをぼんやり見つめる。
鉱石街は南北に大通りがあり、その中央付近に先程の大きな円形公園がある。円形公園から東西にも大きな通りがのびていて、さらに南西側に向かって街全体が傾斜している。南西側に向けて大きな階段状の通りが続いていて、その道の両側に高さが異なって連なるアパートが見える。
山の入り口に街が位置している。
「肉串だけじゃ、お腹が空いているだろ?」
「うん、ありがとう」
屋台はここにも出ている。上りながら途中の屋台でユリウスはパンを買ってくれたので、それを歩きながらアディは受け取り、二人で階段を上っていく。
時々パンをかじりながら歩くユリウスは、普段より口数が少ない気がした。
「どうしてイベントに参加だけしたの?」
ユリウスはふっと軽く笑って、前を見たまま答える。
「ああ。ずっとマリアに付けられていてね、彼女を撒くためだよ」
「え?なんで?」
「彼女はずっと以前からの従者というか、仲間というか。色々な困難を共に越えてきてくれたんだ。とても頼りになるんだが……私と同じで時々変な暴走をするところがあってね」
凄く私と似ているんだよ、と言いながらユリウスが微笑みこちらを見てくる。と、アディはきゅっと胸につかえるような感じがした。
何だろう。何か……。
「……そうなんだ」
「ああ。この旅の準備の時に私が暴走しただろ?そしたら後からマリアに怒られてね。だが、納得いかなかったよ。君には言われたくはないって――」
「そんなことより」
アディは、ユリウスの言葉をつい遮ってしまった。慌てて言葉を続ける。
「私は、その、せっかくだから岩を割るユリウスの勇姿は見たかったよ」
――こんなことを言いたかった訳じゃない。
「……そうか、それは申し訳ない」
そこから、二人して静かに階段を上っていた。
アディは、ユリウスを知らないんだと改めて思った。どうして王子の座から退いたのか、どうして軍人になったのか。
そして、アディは自分が何者なのかすら分からないのに、そのままユリウス達に甘えてしまっている。
それを思うと、申し訳ない気持ちがアディの視線を足下に落としていく。踏み込む足下には、無骨な石畳がずっと続いていた。
「……ほら、見てごらん」
「え?」
アディが顔をあげると、前を歩いていたユリウスは振り返っていた。
そこは、少し道からそれて膨らむように広がったスペースだった。ベンチがあり、端の方には落下防止の積みブロックがあった。そこにユリウスはアディを案内するように一緒に近づく。
ブロックの外側は崖のようになっている。今までこんなに上っていたのかと、その景色を望んだ。そこからは街の円形公園が俯瞰して見れる。
あの時に見た景色に似ている。あそこにはお墓があって、その時ユリウスはそこに花を手向けていた。
「私の我が儘に付き合ってくれてありがとう、アディ」
「え?」
我が儘を言っているのは私の方。
「それは――」
「君と海で出会った時、私は過去の失敗をやり直せる気がしたんだ」
次回第二十五話 ユリウスはアディに我が儘を言う




