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歴代最強の帝国皇女は敵国騎士と結ばれたい  作者: 永頼水ロキ
第一章
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第二十話 持つ者と持たざる者

 ユリウスとシッドは二人で酒場に来ていた。裏通りの少し奥、小さなその店はシッドの昔の行きつけだった。ビールを飲む二人の前にはドライレモンがつまみに置かれていた。


 はじめシッドからこの街にやってきた理由を問われ、ユリウスはアディの記憶の手がかりを探しにやってきたことを答えていた。


 アディとマリアはホテルで寝ているだろう。そして、二人のビールは二杯目がテーブルに置かれたところだった。


「――そういえば、トリエント家はどうなりそうなんだ?」

「隠居していた親父が家長に戻るらしい。俺は変わらず……ただの鉱夫のままだよ」


 アンドレアは手下と共に逮捕された。これから捜査が進むが、行方不明となった女性たちに対する人身売買の嫌疑もかけられている。いずれにしてもトリエント家からは追い出されることになるだろう。


「……あんたに助けられた時。もう絶望していたんだ。全部に」


 ユリウスは頷き、ビールを口に運んだ。そして、そのまま静かにシッドの言葉に耳を傾ける。


「俺の家は鉱山主で、しかも領主様に指名された黒鉱の流通を担っている家だ。それは、代々『鉱石鑑定』の魔力持ちが生まれる家だからだ」


 魔力『鉱石鑑定』があれば鉱石の中に含まれるものを見極め、加工の方向性をより価値の高いものへ決められる。トリエント家はその魔力持ちの家系ということだ。


「だが、俺には魔力がほとんど無かった。それが分かったときに俺の世界は壊れたんだ」


 魔力の有無と質は家柄で決まる。そのため、魔力持ちの家柄は、長い歴史の中でその魔力を生かして富を築き、貴族や豪族として幅をきかせている事が多い。そして、それは玉座に近いほど強力なものになる。


 だが、魔力の量は人による。魔力持ちの家柄に生まれながら、魔力が少ない者は時に現れる。そして、そういった者達のその家での扱いは総じて良くない。


「魔力なんて生まれもってのもんだろ。そんなの……俺のせいじゃない!」

「確かにそうだな」


 ユリウスはレオール王国の王子として生まれ、そして強い魔力を持っていた。その量は第一王子より大きかった。


 そう、俺のせいではない。国の分裂を招きかねなかったのは。いや今でもその問題が完全に解決した訳じゃない。だが、俺は――。


「そんなの俺のせいじゃないだろう!」

「確かに、魔力が少なく生まれてきたのはシッドのせいじゃない。だが――」


 否定の言葉に、シッドは顔をあげてユリウスを見た。ユリウスも見つめ返す。


「今、ここにいるのは君の選択だろ」

「俺の、選択……」

「『鉱石鑑定』がなくてもトリエント家で仕事を続けることを選び。アンドレアの悪事に手を貸さないことを選び。鉱山で働き続けることを選んだ」


 ユリウスは周りを見た。


「皆、生まれた時点で魔力も才能も家の力も違う。それは確かに選べないし、誰のせいでもない」


 シッドも周りを見回した。そこには色んな人が飲んだり食べたりしながら、楽しんだり、項垂(うなだ)れたりしている姿が見えた。


「だが、そこから先は自分の選択の積み重ねの結果だ。愚かな選択、賢い選択。そのためにしたこと、しなかったことの結果なんだ」


 ユリウスはシッドの方に顔を戻した。シッドも向き直る。


「シッド。君は今までどんな選択肢を選びとり、そのために何をしてきて。そして、これからどうする」

「俺は……」


 ユリウスは立ち上がり、二人分のお金をテーブルに置いた。


「あまり愚かな選択ばかりだと、アンドレアのように選択肢がなくなるがな」


 シッドをそこに置いて、ユリウスはホテルへの帰路についた。


 俺は自分で選んでここにいる。


 ……翌朝、ホテルのロビーにユリウス達が降りると、そこにシッドが待っていた。


「そのお嬢さんの記憶の手がかりって言うペンダントだが……」


 シッドは真っ直ぐにユリウスを見た。


「そのペンダントの石の産地は……本当はここの鉱山じゃない。ここより東にある小さな町にある。もしかしたら、あの町にいる職人が作ったものかもしれない」


 * * *


「ガイウス殿下!」


 外遊先の晩餐会が終わり、警備の騎士を連れて広い廊下を歩いていた第一皇子ガイウスを呼び止めた人物がいた。


「クロイスター候、どうされた?」


 エイデン・クロイスター侯爵。確か、先生の話ではタカ派の筆頭だったな。


 外遊にエイデンは領軍を提供しており、そして付いてきていた。


「少しお話ししたいのです――」


 場所をホテルの客室に移し、ソファーに向かい合って座っていた。ガイウスとエイデンだけがこの部屋にいる。


「……それで話とは」

「以前からお願いをしておりましたが、土竜(もぐら)の使用許可の件です」

「ミニエーラ王国に対する調査か」

「はい。何度か議会等を通じて皇帝陛下には上奏させていただいておりましたが……。ミニエーラ王国が属国に下った戦時中から、レオール王国に例の軽量銃の基幹部品を納入しているとの話。捨て置けません」

「その話、信憑性は高いのか?」

「これを……」


 そう言って、エイデンは黒い石を二人の間にあるテーブルに置いた。


「勝手ながら、私の商人を使ってミニエーラの商会に探りを入れておりました。この石は本来、帝国だけに納入されているはずのものですが、レオール王国に流れる商品に紛れていました」

「ただのブラックダイヤモンドでは?」

「いいえ、加工が異なります。原料の鉱石は同じようですが中身は別物。軽量銃の基幹部品に必須のようなのです」

「なんだと」

「戦時中、すぐに下ったエーデルワイス家ですが、あれはかなりのくせ者ですな」

次回第二十一話 先生の講義は続いている

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