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歴代最強の帝国皇女は敵国騎士と結ばれたい  作者: 永頼水ロキ
第一章
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第十九話 ヴァジュラパーニ家三女

 猿轡を付けられて後ろ手に縛られたアディは、目隠しをされた上に両足首も縛られて運ばれたため、ここが何処なのか見当が付かなかった。ただ、さっき嗅いだ倉庫の埃っぽさを感じていた。


「例の女です」

「わかった。(わか)が来るまで奥の部屋に入れて鍵を閉めとけ。間違っても勝手に手を出すなよ」


 アディを担いだ男が別の男とそんなやり取りをした。そのあと、さらにどこかに担がれて持っていかれると、急に床に下ろされた。


「へへ。後でな」


 いやらしい手つきで少し髪を触られた。そのあと、ドアの閉まる音が聞こえて鍵がかかる音がする。


 ……静かになった。ここは祭りの喧騒が聞こえず静寂が不気味に漂っていた。


 誘拐が多くなっているって話だったけど、まさか祭りの真っ只中で誘拐されるなんて……。


 あの時、恥ずかしがらずにユリウスの手をとっていれば。そう後悔した。ロープはきつく、まったくびくともしない。起き上がることすら出来なかった。


 私はどうなるの…?


 冷や汗が今さら現実感を引っ張り出す――。


 ――しばらくすると、足音が聞こえてきた。アディは自然と震え始めた。


 ……ユリウス!助けて!


 鍵が開く音がして、すぐにドアが軋む音が聞こえた。体に緊張が走る。


「さあ、お嬢さんはこっちだ」


 どさりと、近くに誰かが下ろされたのを感じた。


 もう一人拐われてきたの?!


 下衆な笑いが聞こえ、再びドアと鍵の音がして静かになった。くぐもった声しか出せず、アディは何も出来ない自分に歯噛みする気持ちになっていた。


 と、急に目の前が明るくなる。ほぼ同時に猿轡も外された。


「ぷはっ!けほけほ」

「今ほどきます。大きな声はあげないようにしてください」


 目を向けるとマリアがそこにいた。


「マリア?どうやってここに?」


 マリアはほどきながら優しい笑顔を向けてくる。


「わざと捕まるようにしました。おそらくアンドレアの手引きです。逆恨みかと思われます」


 アンドレア・トリエント!若ってあいつか!


「申し訳ありません。あの変装で目を細くしていると上手く周りの把握が出来なくて……。アディさんが消えた後、以前見かけたアンドレアの部下が周囲に数人確認されて分かりました。それで私も誘拐してユリウス様に一泡ふかせるつもりなのだと」

「どうやって縄を――」


 床を見る。そこに引きちぎられたようなロープが落ちていた。


「……え?」

「引きちぎりました」


 アディはロープを手に取った。とてもではないが引きちぎれるような細さではなく、何十にも縒られた丈夫なロープだった。


 後ろ手で縛られたんだよね?


「私は『剛力』の魔力を持っております」


 馬車から大きな荷物をマリアが片手で取り出していたのを思い出した。


「では、参りましょう。私の後ろをついてきてください」


 ……そのあとはとんでもない光景だった。


 大の男が次々に華奢な女の子の掌底一撃で吹き飛ぶのは、後にも先にも見ることはなさそうだった。


 ずっと笑顔のまま。返り血が、マリアの笑顔についていた。


 * * *


 ユリウスは倉庫の外から状況を見守っていた。自分が助け出したかったがマリアに止められた。どこに捕まっているか分からない状態で正面から突っ込めば、アディを人質にされかねない。


 あのとき、無理にでも手を繋いでいれば。


 ユリウスは後悔していた。アディに断られたときに思考が慌て、そのせいで上手く周りに気を配れなくなっていた。


 その時、バゴン!と衝撃音が鳴り響き、それと共に男が倉庫の中から吹き飛ばされて出てきた。


 ユリウスはマリアに手加減するよう言い忘れていたことに気がついた。


「マジかよ……」


 シッドがその光景をみて言葉を呑んだ。倉庫の方に近づくと、多くの男達が壁にもたれ掛かるように倒れているのが見えた。そして、中央に立つ笑顔のマリアと後ろで震えているアディ。


「――なん…なんだこれは?!」


 声を聞いて後ろを振り返ると見知った顔があった。アンドレア・トリエントとその取りまき達だ。


「シッド、貴様……。どこまでも我が家の恥をさらすのか」

「いや、女の子を誘拐するような奴に言われたくねえ」


 確かに。


「……これが初めてではなさそうな手際のよさだな」

「もういい。お前ら、始末しろ」


 手下たちは腰からナイフを取り出し、ユリウスを囲んだ。十人近い人数がいる。


「扱い方を学ばなければ自分が怪我するだけだぞ?」


 さっと間合いの一人のみぞおちに一撃、そのあとは流れるように近くから順番に片付けた。ものの数秒で全員地面に倒れていた。


「たまには自分で戦ったらどうだ?」

「ああ。確かにそうだな…!」


 アンドレアは逃げなかった。自信満々に胸元へ手をいれると、そこから黒い棒状の物を取り出す――。


 それを見るやいなや、ユリウスはシッドをつかんで大きな木箱の裏に、滑り込むようにして駆け込み距離を取る。


「ほう、凄いな。これが何か一瞬で判断出来るのか」


 アンドレアが取り出したのは新型の軽量銃だった。軍でもまだ配備を進めている途中の新兵器だ。


 アンドレアは試し撃ちとばかりに、ユリウスの隠れる木箱に向けて数発撃ち込んできた。


 破裂音と共に木箱の一部が弾けとぶ――。


 ――その時、奥にいたマリアが飛び出すのが見えた。


 びっくりしたアンドレアは銃をマリアに向け、続けて発砲する。バンという火薬の弾ける音がして。


 キィン!!


 体の前に盾のように構えたマリアの左腕から、火花と金属音が鳴り響く。


 左腕に仕込んだ鋼鉄の長手甲で弾丸を弾きいなしたのだ。


 弾かれた弾丸が側の地面に突き刺さった。その次の瞬間には、マリアの右の掌底がアンドレアの顎をとらえていた。


 ……ヴァジュラパーニ家の戦姫。その不敵な笑みが構えの隙間から見えていた。

次回第二十話 持つ者と持たざる者

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