第十三話 お騒がせ子狐?
「ホワイトフォックスの子供みたいだ」
ユリウスに抱かれたフワフワは「ホワイトフォックス」というらしい。真っ白な子狐がつぶらな瞳をこちらに向けてくる。
あざとい…!
アディが子狐の頭に手を伸ばすと、目を閉じて撫でさせてくれる。
うん。あざとい子だ。
「確か、天然記念物ではなかったですか?」
「そう。国が保護しているはずだ。道の脇でうずくまっていて、馬がそばに来ても逃げなかったから変だと思ってね。足を引きずっていたから怪我して動けなかったみたいだ」
「この辺に町などはないです。一緒に連れていって鉱石街で保護してもらいますか?」
狐は頷いた。
ん?
「そうだな」
気のせいだろうか。今……。
アディは首をかしげた。アディを尻目に二人は子狐を手当てするための包帯など準備を始めていた。
引きずっていた右後ろ足を包帯で軽く固定され、子狐はマリアの隣に座らせられる。大人しく座る子狐を見ながら、アディはしばらく馬車に揺られるのだった――。
――夜になり馬車は少し開けたところに停めている。
「アディさんは、馬車の後ろにある折り畳み椅子をここに広げて三人分並べていただけますか?」
マリアはそう言いながら、鍋や食材を取り出していた。一方のユリウスは少し離れた所にテントを設営していて、子狐は馬車の中で寝ているはずだ。
「分かった」
馬車の後ろに回り、取り付けられた折り畳み椅子を外して三脚を地面においた。そして、その内の二脚を両手に持ってマリアのいるところに戻る。
「え?」
食材が鍋に収まっていて煮込まれていた。
あれ?さっきまで食材は干し肉や野菜がまな板の前に並べられていたよね……。
椅子を置き、もう一脚を取って戻ってくる。
「ええ?!」
テーブルにパンや食器がセットされ、鍋からスープをよそっていた。
早くない?
すると、子狐を抱いたユリウスが横にやってきた。
「相変わらず手際が良いな、マリアは」
アディは呆気にとられたまま、とても美味しい夕食を終えた。その後、テントにユリウスと子狐、アディとマリアがそれぞれ入り、一晩をあかす……。
* * *
子狐はユリウスの美しい肉体美を見ていた。均整の取れた綺麗な胸板の筋肉と腹筋、少し汗ばんだその姿はまさに――。
「どうした?」
少し目を見開きすぎていたらしい。
気を付けて見ていない振りをしながら、横目で着替えをするユリウスをしっかり観察してその夜は過ごした。
翌朝、馬車には子狐を横にユリウスが座り、正面にアデレードが座っていた。和やかに会話している二人を見て、だいたい状況を理解した。
子狐は彼らの状況を概ね理解できたので、もうここにいる必要はなくなった。あとは隙をみてこの場を離れ、師匠の元に帰るだけだ。
……しかし。
ふと、二人の視線や会話の端々からあることに気付いた。子狐には一種の使命感が沸き起こったのだった。
ちょっと「良くあるシチュエーション」を演出できるのは、私だけなのではないだろうか、と。
思い立った子狐は一瞬の隙をついて跳び跳ねる。
びっくりする二人を混乱させ、と同時にうまくアデレードの背中を取った。そして、両足でアデレードの背中を蹴りあげてユリウスに押し付ける。
……おしい。ユリウスはアデレードを抱き締めるにはいたらず。アデレードが尻餅をついて終わってしまった。
ユリウスがこちらを驚きの表情で見てくる。だが、へたれにかける言葉はないのだ。マリアが異変に気付いたのか馬車を止め、「どうされましたか?」と言いながら扉を開けてくれたので、あとは外に飛び出せば良い。
走って逃げて、見えなくなるところまで林の中に入った。
子狐はアデレードの真っ赤になっていた横顔を思い出して、悪い顔になっていた。そして次の瞬間、子狐の姿はそこにはなく、代わりに白い鳥が林を抜けるようにして飛んでいった。
次回第十四話 二人の廃嫡男




