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歴代最強の帝国皇女は敵国騎士と結ばれたい  作者: 永頼水ロキ
第三章
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第三十五話 二人だけの世界で

 灰色の異界は、ずっと遠くの方から少しずつ崩れていっていた。だが、ユリウスには不思議と不安はなく、アデレードを背中から引き上げて抱き寄せ、その様子を見つめていた。


 アデレードは静かな呼吸で眠っている。『闇』の魔力と干渉したからか、アデレードはアディ・ライアーの姿から元に戻っていた。美しい黒髪がユリウスの手に少し絡まり、流れていた。


 時間の感覚は薄く、暫く遠くの崩れ行く景色を眺めていると、アデレードの呼吸が少しずつ早くなり、そして……。


「ん……」

「アディ!」

「ん?あ、え、ユリウス……?」

「……良かった!」


 ユリウスはアデレードを自分の胸に引き寄せ、抱き締める。アデレードのくぐもった声が少し聞こえたがそのまま抱き締め続けた。


 いつの間にかエクスの死体や痕跡は無くなっていた。空が少しずつ明るくなり、崩壊の速度も遅くなったような気がした。


 世界には二人だけ。ただ抱き合っている。アデレードの温もりから、呼吸、心音まで胸元に感じていた。


「……ユリウス」


 アデレードを少し離し、立ち上がった。ただ、まだアデレードの表情がはっきりしていなくて足元も不安があった。そのため、ユリウスはその両肩を外側から支えるようにしていた。アデレードの顔が近い……。


「ありがとう……」

「怪我は?」

「大丈夫……ここって……?」


 アデレードはまだ少しぼんやりしているようで、周りを見渡しながら頭に手をやって目を瞑った。少ししてまた目を開ける。


「詳しくは省くけど、『闇』という魔力が作り出した空間、異界の中だよ。使い手はもういないからいずれ出られるとは思っている」


 なぜか外縁の崩壊は止まっていた。


「……ん?あ、え?!ユリウス!?」

「どうしたんだ?!」


 ぐっと両手でユリウスの胸を押さえるようにして、アデレードは顔を背けた。それから真っ赤になった顔を少し向けて、それからそっぽを向く。


「な、何でもない。ちょっとびっくりしただけ……」


 ……ああ。


 ユリウスも少し顔が熱くなった気がした。


 いや、もう俺もいい年なんだ……。ちゃんとしよう。


「……アディ」

「は、はい」

「こちらを見てくれないか?」


 アデレードは少し地面の方を見てから、ユリウスに視線を戻してきた。まだ、少し紅潮した頬のまま。


 その両手を取った。両手を包むように握る。


「アディ」

「ひ、はい!」

「君を失いかけて改めて思い知った。君のことが大切で、失いたくない」


 アデレードは少し涙目になりつつ、静かに耳を傾けていた。


「アディ、君のことが好きだ。愛している」


 アデレードはしばらくの間、ユリウスの目を見つめていた。そして、そっと息を吸う。


「私も、ユリウスが特別な人なんだって……初めて出会ったときから多分分かってた。理由は分からない。でも、そう思った。私もユリウスのことが好き。一緒にいると楽しい。一緒にいると落ち着く。一緒にいたいよ、ずっと……」


 そうだ。ここでは、関係ない。誰も、国も、立場も。


 そっとユリウスが顔を近付けると、アデレードは目を瞑った。そして、ユリウスも目を瞑り、唇をアデレードに優しく合わせた。とても自然で、とてもいとおしい時間……。


 温もりを感じ、安心が心を満たした頃、二人はようやく離れて、目を開け、また見つめ合っていた。


「アディ、君と一緒になりたい。そのために、まずは国同士の亀裂を何とかしたい。エニグマに邪魔されたが、今度こそ」

「うん。それで、私も動いていたよ」

「……何を?」

「いくつか、踏まないといけない手順があるけれど、一つの解決策を取りたいと思っているの。エニグマの問題は引き続きあるけれど、それとは別に根幹の問題もあるから――」


 ――アデレードはその考えをユリウスに説明した。それはとてもではないが普通実現出来ない内容……神々を動かす必要があるものだった。ただ、ユリウスには「アデレードなら」という思いに至って納得した。


「よし。分かった。アディならいけるな。俺も協力するよ」

「ありがとう……。それで、ここっていつまで在るの?」

「……一向に出られる雰囲気がないな」

「そろそろいいか?」


 驚き、二人はぱっと、その声の方に顔を向けた。そこにはベールを被った女が一人立っていた。すかさずユリウスはアデレードの前に立ち、サーベルに手をかける。


「……あなたは?」

「教皇ガイア……」


 アデレードがその名を口にすると、ガイアは微笑んだ。それを見て、ユリウスはサーベルから手を下ろした。


「あなたが教皇?」

「……そう。あなたがこの異界を維持しているのね」


 アデレードはユリウスに顔を向けた。


「教皇ガイアはあらゆる魔力を使えるの」

「なんだって?!そんなことが?」

「……そろそろ未来も固まった。我が異界に留まる理由はあるまい?」


 アデレードは一歩前に出ると、頭を下げた。


「はい。ユリウスと次のステップに進みます」


 微笑みを絶やさないガイアは、ベールの向こうで目を細めたように見えた。わずかに判別できる視線は、しかし、優しいわけではなく一つ鋭さもあった。ただ、敵対的な雰囲気は感じなかった。


 異界の外側から崩壊が再開した。


「では、待っていよう」


 ガイアはそう言うと、徐々に薄く透明に消えていった。


 崩壊する世界の中心で、二人は再び抱き合った。お互いに決意を固め、それを確認し合っていた。

第三節ここまでです。


次回第三十六話 二手目

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