第二十三話 おぞましき仮面
ユリウス、レオナルドそしてマリアは、マキシアスが運転する馬車に乗り、集会の場所に向けて走っていた。港街から会場の街までは街道を行くことになり、その途中にいくつか町や村を経由する。すでにいくつかの町を越えていた。予定通りなら夕方過ぎに到着するはずで、おそらく先にアデレードは待っているだろう。
アデレードとの約束では、まず土竜メンバーをユリウスが見極めることとなっていて、事前に会場には控室を用意させていた。
「スーザンから買った新型の馬車は良いな。揺れが少ない気がする」
「そうだな、結構早いし、もう少ししたら次の町だ。そこで昼食を取ろうぜ」
マキシアスは自分から運転をかって出たわけだが、彼の馬の扱いが上手なのか、それとも馬車が良いのか予定より早く着きそうだった。
このペースだと、アディより先に着くかもしれないな。
――だが、そう上手くはいかなかった。
「こんなときに限って……」
昼食を終え最後の中継地を出て馬車を走らせたが、街道の途中にある川に差し掛かったところで立ち往生することになった。
橋が壊れ、馬車では前に進めなくなっていたからだ。
「くそ、不味いな。少なくともユリウスだけでも会場入りしないと、今回の作戦全部が意味をなさなくなるぞ」
「さすがに私でも馬車を担いで川は渡れませんし……」
……マリア、さすがに俺も君にそんなことお願いしないぞ?
多くの行商人が行く手を阻まれ、頭をかいてはUターンしていた。
「……坊っちゃん、聞いてきました。迂回路があります」
地図を広げ、その道を確認する。
もっとも近い橋でも距離があり、馬車でいくとなると大きく回り込む必要からとても間に合わなかった。だが、川が一部浅くなっているエリアがあり、そこを馬車で強引に渡ることが出来るらしい。それをマキシアスは行商人の一人から聞き出してくれていた。
「最近は降雨も少なかったですから、水嵩も問題ないだろうとのことです」
「この距離なら……なんとか間に合うな。アディを待たせてはしまうが」
「良かった。万事休すかと思った」
アディには心配をかけてしまうが……。
ふと赤い石を胸元でさすった。
だめだ。今日は準備で近くに土竜がいるだろうからこれは使えない。
アデレードの側近が信用できないのはかなり不味い状況だ。それをユリウスは改めて思い知らされた。
幸いにもスーザンの用意した馬車は機能性が高く、難なく川を渡ってみせてくれた。ただ、目的のタウンハウスには予定より二時間以上遅れて到着した。集会の終わりまであと半時ほどしかない。
急いで会場入りすると、クリスティーナとルーカスが走って寄ってきた。
「どうされたのですか?」
「だいぶ遅かったですが……」
「すまない。橋が壊れていて大きく迂回した」
さっと周囲を確認した。魔力に注意を向けると、そこにいる人々の意識が色とりどりのオーラとして見えた。
まずはアディの側近からだ。
「アディは?」
「奥の控室に。あと、先ほど部下の二人が来てユリウスさんを探していました……。あ、あそこにいます」
ルーカスが指差した先に男女二人が見えた。そこに近づく。
「失礼。アディさんの部下の方ですか?」
「……ユリウスさんですか。お待ちしていました。アディさんは奥の控室にいます。こちらにどうぞ」
確か、ティアという土竜のメンバーだとユリウスは思い出す。ティア、カサンドラについては、先日のイーサン救出の際に顔を見ていた。そして、そのオーラも特段警戒を要するものではないと思っていた。
また、黒騎士隊長だというウィリアムも同じくあの時オーラを見ていたが、アデレードに対して敵対心は確認されなかった。
今回初めて会えるのは『転移門』のヘンリーと『変装』のケイレブの二人だが……。
「あなたは?」
ユリウスは男の方に声をかけた。
「私はヘンリーと申します」
この男は……大丈夫そうだな。あとはケイレブだけか。
二人についていく形で奥の控室に入る。ノックをして扉を開く。
……なに?!
「ユリウスさん、遅かったですが何かあったのでしょうか?」
アデレードの声がその女から聞こえた。アディ・ライアーという女の姿。だが、そのオーラは分かりやすくユリウスに対して敵対する意図を持っている者の、人を騙そうとしている時に見える色だった。
「あ、ああ。すまない。橋が壊れていて大きく迂回するはめになったんだ」
努めて冷静に返した。
そして、残りの二人に目を向けると、カサンドラも以前と全く異なるオーラになっていて、ケイレブと思しき男もそういう色を纏っていた。ケイレブに至っては騙そうという意図と、動揺、そして殺意に近い敵対心を感じた。
アディは……本物のアディはどこにいる?!
「それで、参加者リストは?」
まるで、アディ・ライアーの生皮を剥いで被った怪物がそこにいるようだった。
次回第二十四話 主張なきテロリズム




