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歴代最強の帝国皇女は敵国騎士と結ばれたい  作者: 永頼水ロキ
第三章
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第十七話 魔法少女は悪の結社と戦うのがセオリー

 なんなのこの人……。


 確かに火中の栗を拾いにいったことについては自覚があった。だが、こんな面倒事になるとは思わなかった。そう、エリザベスはイライラしていた。


「んー。ダメだねえ。そんなんじゃあ。使えないよ?全然だめえ」


 この糞野郎……いや、ウリエルの友人のことをエリザベスは昔から嫌いだった。


 錬金術師、サミュエル・アルケミストはウリエルの友人だ。公の立場はウリエルと同じ協会司教。ただ、他の司教達が皆ケーヘル姓であるのに、この男だけはアルケミストを名乗っていた。


「……これでどう?」


 今、エリザベスはサミュエルの指示通りに粘土をこねていた。粘土を言われた通りの形に成形しては、ダメ出しを受けてやり直していた。もう一度成形しなおしてそれを見せる。少し大きなラッパのような、そんな形を指示されていた。


「んー。ちょっとここ歪んでる。やり直しだねえ」


 ムカつくんですが?


「なんで私がこんなこと」

「それはそうでしょ。対価は何事にも必要なんだからあ」


 なんで私がラッパの形に粘土をこねなきゃいけないのか。それは突然震え出した赤い石から始まった。


 * * *


「嫌です」

「エリーでないと出来ないことだから」


 いつからかアデレードは愛称呼びでエリザベスを呼ぶようになっていた。


 許可した覚えはないのだけれど。


「私もよくわからないけれど、彼の要求してきた対価がそれなのよ」

「なんで粘土なんですか?」


 あの日、エリザベスは帝国内の反乱に対しての動きをアデレードに直接確認しに行った。彼女は作戦のすべてを教えてくれた。そして、エリザベスには何も求めなかった。その時は。


 だが、どうやらアデレードにも不測の事態が起こったらしい。あれだけ自信満々だったアデレードが、赤い石で呼び出されて会いにいくと、なかり気落ちしていることにエリザベスは気がついた。


 そして、今度はエリザベスにお願いしてきたのだった。ただ、また魔力の『変身』でどこかに潜入してこいと言われると思っていたのに、その要求は違うベクトルで面倒くさいことだった。


「なんでも、魔力が少しある人に練って成形した粘土を使って新しい道具を作りたいとかで」

「……魔力が少しある?」

「私だと強すぎて使えないらしいから、エリーにお願いしたいの」


 馬鹿にしている?


「……アデレード。何をしたいの」


 そうだ。我が国が帝国の属国だろうと本来は――。


「……私は――」

「私は貴方の道具じゃないし、部下でもない。確かに戦争で負けた属国の王女だけど、何も知らないだけの人形でもない」


 私はミニエーラ王女。ミニエーラ王国を背負っているからここに来た。そうでなければ、こんな面倒なことに首を突っ込んだりしない。何も知らずに使われるために来たんじゃない。


「……ごめんなさい。つい、話しやすいから……」


 そう言うと、アデレードは一つ呼吸をおいてから、トーンを落として話し始める。


「エリザベスにはサミュエル司教から新しいアイテムを手に入れてほしいのです。本来は私の部下から動かすべきことは承知していますが、部下では出来ないことがわかり、そのためお願いしたいのです」

「新しいアイテムですか?」

「はい。サミュエル司教にお願いしたアイテムは、擬似的に『診断』を行えるもの。麻薬"傀儡糸"で侵された者を判別したいのです。彼の専門は魔力の研究で、魔力の擬似的発現なので、それを利用してこの問題に対処します――」


 アデレードの説明では、多くの国の貴族たちが傀儡糸という麻薬に侵され、エニグマという謎の組織に操られているということだった。あのレオール王国ですらその魔の手に蝕まれていたらしい。


 王子さまのお兄さんも操られていたと。


「……ミニエーラ王国にもそれで操られている貴族がいるのでしょうか」

「いました」

「……ということは」

「ええ。こちらで内々に対処しています。当然、エルンスト国王と協力して。ただ、同盟国ならそうして内々に対処出来ないこともないですが、他国ではそうもいきませんし、『診断』の使い手にも限りがあります」

「それでアイテムということですか」


 アデレードは静かに頷いた。


「……承知しました。サミュエル司教からアイテムを手にいれます」

「ありがとうございます」

「その代わり、一つお願いしたいのです」

「何でしょうか」


 エリザベスは立ち上がると、猫の姿のまま窓枠に飛び乗った。


「……二人だけ、王女や皇女としてではないときは、アディでいいかな」


 アデレードは一瞬驚き、すぐに笑顔になった。


「もちろん」

「なら、エリーでいいよ。じゃあ」


 そう言って鳩に変わると空に飛び出した――。


 ――サミュエルの住処は協会ではない。帝国首都郊外の森の奥、その山小屋のような家に一人で住んでいる。そこに何度かウリエルの使いで訪れたことがあったが、しゃべり方から何から何まで鬱陶しく、エリザベスは出来る限りサミュエルとは関わりたくはなかった。


 ……今回は仕方がない。


 山小屋はいくつかの棟があり、その内の一つはウリエルの別邸として建てられていた。その中にエリザベスの着替えが置かれている。まずは鳩から人に戻るためにそちらの棟に入った。


 着替えを取り出しつつ、アデレードから聞いた話を思い出す。


 エニグマ。結局は何が目的なんだろう。普通に考えるならお金儲けとか?他に何の目的がありえるのだろう……。


 服に腕を通すと鏡の前に立った。銀の髪が光り、赤い瞳がこちらを見つめている。


 あらゆる国の貴族を操り、今回はアデレードとユリウスによる和平交渉を妨害した。つまり、平和に成られたら困るということ。エニグマはこの世界の分断を望んでいる。分断の先にあるのは戦争。ということは、エニグマは戦争を起こそうとしている?


 レオール王国でも、戦争推進派にエニグマは関わっていた。ユリウスの兄や侯爵を操り、帝国との不和継続を成していた。


 戦争を継続させたり、起こさせてどんな得がある?その先に何を目指している……?


 しばらくじっと鏡を見つめて、それから溜め息をついた。


 一つ分かった。エニグマは悪の結社で、私の敵だ。

次回第十八話 約束されたマリアの

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