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第9話.謎を解くⅠ

 


「……以上が、皆さんの証言の内容になります」



 男はずいぶんと長い間、休まず口を動かしていた。

 しかし喉が渇いた様子も見せなかった。男はその場に居る全員の顔を眺めるようにして見回す。



 それまで黙って話を聞いていた七人は、男の声を合図にするようにしてお互いの顔を恐る恐ると見遣る。

 控えめな挙措でありながら、瞳には猜疑心が満ち満ちていた。というのも彼ら七人とも、この中に聖女を殺した犯人が居るのだろうと思っているので、自分以外の全員をそうして疑い深く見つめる他になかったのである。犯人でない以上は、当然、誰もがそうするのだった。



 男は異様な雰囲気に呑まれるでもなく、再び口を開く。



「さて、それでは――」

「探偵よ」



 そこで、男の言葉を遮った人物が居た。



「何でしょう、国王陛下」

「御託は良い。犯人が分かったのなら、さっさとその名を告げよ」

「お断りします」

「……何だと?」



 国王の目が不気味にギラつく。

 証言内容にもあった通り、国王はすでに昨日、探偵から犯人の名を告げることを素気なく断られていた。

 だが再三に渡り命令に頷かれなかった経験など生まれてこの方、王には一度も無い。



「畏れながら国王陛下。それでは謎を解き明かしたことにはなりません。私は探偵である以上、謎解きをしなければなりませんから」

「そんなものは不要だ。犯人さえ分かれば、そいつを断頭台に送って全てが終わる」

「そう長い話にはなりませんよ。犯人はすぐに分かりましたから」



 国王はおお、と感嘆の息を漏らした。

 静かな驚愕の波が、国王から伝播するように七人の間に広がっていく。

 男は勝ち誇るでもなく静かな口調で言う。



「人が人を殺める理由は、色々あるでしょうが……元を辿ればたった一つだけです。

 そう――その人物を殺すことで、自身が何かしらの得をする。そのために、人は人を殺すのです」



 つまり――この中の誰が、聖女を殺すことで得をするのか?



 いよいよ話が核心に迫るのかと身構えた七人だったが、男は「ところで話は変わりますが」などと言い放った。



「皆さんの話に出てくる聖女像には、一貫性がありませんよね。

 誰からも慕われる優しい聖女。理由なく侍従を遠ざける気まぐれな女。その美貌で男を誑かす悪女。愛らしく無邪気な少女。嫉妬に駆られ人を呪う魔女……果たして、そのどれが真実なのか。誰かが嘘を吐いていないのであれば、そのどれもが聖女の真実だったのでしょうね」



 人にはいろんな側面があると言いますから、と男は無機質に微笑む。



「それでも皆さんの話から、見えてきたものがあります。その糸を辿っていけばその内の一つ、()()()()()()()()()()()()は察することができます。

 そもそもの始まりは――"あの日"から三ヶ月前の夜だったのです」

「三ヶ月前……」

「ええ近衛騎士さん。あなたが頭痛と吐き気を覚え回廊を離れた日ですよ」



 近衛騎士が息を呑む。

 全員が近衛騎士を一斉に見つめた。しかし男は首を横に振る。



「いいえ、近衛騎士さんの話に嘘はないでしょう。というのも彼が咎人であれば、むざむざと自分の失態を私に語る必要なんてありませんからね」

「では、どういう……」

「近衛騎士さんの話に出てきた、男爵家出身の騎士。彼が一つの鍵を握っています」

「あの男が?」



 意外な指摘に、近衛騎士は目を丸くした。

 あの騎士のことは覚えている。いや、そういえば……近衛騎士には先ほどからの男の語り――正しくは騎士団長の証言――を聞いて、ずっと不思議なことがあったのだ。

 まるでそれを知っているかのように男が問うてくる。



「近衛騎士さんにお伺いしたいんですが、着任式にも出ていないような見習いの騎士が要人の護衛に当たることはあるんですか?」

「い、いえ。そんなことはあり得ません。というかそもそも……」

「そもそも、何でしょう?」

「あの、彼は、自分を騎士見習いだとは一言も……近衛騎士の身分だと名乗っていて、隊章もつけていましたから」



 なるほど、と頷いた男は、近衛騎士から騎士団長へと目を向ける。



「騎士団長さん、これはどういうことでしょう?」

「オレにもさっぱり分からねぇが……つまりアイツは、オレの目のないところで騎士ごっこでもしていたのか」



 ハァ、と溜め息を吐いて頭を掻く騎士団長。大した権限も与えていない男が好き勝手に振る舞っていたとなれば、騎士団長としては頭が痛くもなるだろう。



「じゃあ何だ? その日、あの見習いは聖女に何かしたのか?」

「聖女というより、近衛騎士さんに何かしたのでしょうね」



 そう言われては、近衛騎士に思い当たることはさすがに一つしかない。



「自分は、彼に何らかの毒物を盛られたということでしょうか?」

「そうなりますね」

「ですが、彼はどこでそんなものの調達を……」

「頭痛と吐き気。症状からして、神殿の庭に生えていたスズランの毒あたりですかね」

「ええっ!」



 庭師は飛び上がって驚いた。

 まさか自分の丹精込めて育てた植物が他人に害を成すために使われるなどと、白髪の老人は考えたこともなかったのだ。

 蒼白な顔色をした庭師だったが、すぐに男は付け加えた。



「花は庭にいくつも生えていますから、誰でも持ち去るのは可能だったでしょう。立派な花壇ですから数本であれば、庭師さんも気づかなかったはずです」

「あ、ああ……」



 庭師は安堵とも呆然とも取れぬ返事をした。よもやスズランではなく自分自身こそ疑いを掛けられていたことに、哀れな庭師は男がそう口にしても気づいてもいなかった。



「スズランの根の毒は濃く、量によっては致死量です。ですからほんの僅かに、近衛騎士さんの食事に混ぜたのでしょう」

「自分の食事に? 一体いつ……」

「その日の夕食のメニューはうさぎのシチューだったんですよね? 混ぜ込むのは難しくはないように思います。寮ならお皿は自分で炊事担当の元に持っていきますから、手渡すついでに皿の縁にでも毒をつけておけば、あなただけを狙うのも容易ですし」



 近衛騎士は心当たりのあった様子で、腕組みをしてそれきり黙り込んでしまった。

 そこですかさず、国王が威厳ある声で問う。



「では、その三ヶ月前の夜に――聖女の身には、何かが起こったのだな?」




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