第6話.騎士団長の証言
聞いてるよ。お前が陛下が雇った探偵とやらだろ?
どうにも胡散臭いが、お前に話を聞かれた際には、いかなる状況下であっても速やかに回答しろという達しが騎士団にも出ている。
つまりオレに拒否権はないってことだ。んで? オレは何を話せばいいんだ?
……聖女様の話ねえ。
といっても、オレに話せるようなことはほとんど無いぜ?
近衛の下っ端たちは、聖女の護衛にも就いていたそうだが……オレは騎士団長の立場だ。さすがにそんな仕事は回ってこなかった。
国王陛下の命でも無けりゃ、誰が好き好んで小娘の一人を護衛するなんてつまらん仕事をするんだ。
そんなことに時間を費やすくらいなら、敵地で敵兵をなぎ払うか、酒を浴びるほど飲むか、娼館で良い女を探す方がオレにはよっぽど有意義だね。
……ああ、もちろん王室近衛騎士隊に敵兵をブッ殺す仕事なんか回ってこないけどな。せいぜい、忍び込んだ他国のスパイを泳がせてぶちのめすくらいだ。
なに? "あの日"、聖女に会ったか?
……いや、会ってない。そもそもオレは聖女と個人的に話したことがないからな。
初めて目にしたのは七年前だ。
聖女が王宮に呼び寄せられ、初めて陛下に謁見するときだな。オレぁその当時は団長じゃなく、ただの下っ端騎士だったんだが……。
なかなかに可愛らしい顔立ちのちびっ子だったな。それだけじゃなく肝も据わってた。
不慣れな土地に連れてこられ、あれだけの大人に囲まれて、それでも陛下にお目通りして毅然としてたんだぜ。
確かあの頃は十三歳だっただろ? さすが聖女と言うだけあって、ただのガキじゃねぇんだなと思ったよ。まあ、感想はそれだけだ。
……ハハ、どうやらアンタはオレのことまで疑っているらしい。
別に構わん。やってもいない罪で裁かれはしないだろう?
聖女のことは、近衛騎士の間ではよく話題に出てたよ。ああ麗しの聖女様、お慕いしております聖女様、つってな。
男所帯だからな。若い処女の操を守れるってだけで鼻息が荒くなるような連中もいるんだ。ああ、失言だったか? ハハ、これはメモに取らないでくれよ?
しかもあの、第一正妃への献身的な愛が吟遊詩人にまで謳われた国王陛下さえ、あの聖女に骨抜きにされたと来た。
聖女というより、蠱惑的な悪女という方がよっぽど近いのかもしれないな。オレはその魔法に掛からなかっただけ幸運なのかもしれん。
……っと、そろそろいいか? さすがにそろそろ仕事に戻らねぇと、副団長にどやされる。
何だって? 最後に男爵家出身の騎士の男の話を聞きたい?
そいつは……ああ、居たな。曖昧だが覚えてる。
騎士学校を卒業したての大した取り柄のない男だったが、その父親とオレは面識があってね。
オレはこう見えて伯爵家の出だから、そういう輩と面倒な付き合いってのがあるんだよ。
愚息を近衛騎士隊に入れてくれと頭を下げて頼まれて、致し方なく引き受けた。着任式にも出てねぇ、ただの見習いみたいなモンだけどな。
確か数ヶ月前に一度、どうしてもと志願されて聖女の護衛にも就けたはずだ。
その後は家に連れ戻されたと聞いた。いや、詳しくは知らねぇよ。
アンタが思ってるほど、騎士団長っつーのは暇な役職じゃないんだぜ。世間知らずの坊ちゃんの世話を、延々と見てられねぇんだ。
……なぁ。
余計なお世話かもしれんが、オレなんかより他の近衛騎士どもに話を聞いた方が良いんじゃないか?
正直、オレに聞いたところで時間の無駄だ。申し訳ないけどな。
なに? 一人には既に聞いてる? それならいいけどな。
あいつらの方が、オレなんかよりよっぽど有益な情報をアンタにもたらしてくれるだろうよ。