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第1話.開幕


「恋愛」と「聖女」がテーマな推理小説っぽいお話です。

念のため断っておくと、推理自体は本格的ではありません。


 


 狭い部屋だった。

 八人掛けのダイニングテーブルとチェアが置かれた、奇妙な空間である。



 まるでそのためだけに設えたかのような、中途半端な印象だけが居座った場所だ。

 室内は薄暗く、部屋の四方の壁に備えつけられたランプの光が灯ってはいたが、いかにもそれは頼りなげな光源だった。



 そしてその異様な空間には、七人の人々が集められていた。



 国王。

 王太子。

 公爵令嬢。

 騎士団長。

 近衛騎士。

 庭師。

 侍女。



 身分も立場も大きく異なる、七人の男女。

 そのてんでバラバラな肩書きからして、本来であればこのような一様に集まることなどあり得ない顔ぶれと言えるだろう。

 しかしこの一日だけは、十二分にあり得た。というのも彼らは全員、()()を受けてこの場に集っていたからだ。



「皆様。お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」



 そこで初めて口を開いたのは、壁に背中を預けていた一人の男だった。



 年の頃は二十を過ぎた頃か。

 薄汚れた背広姿だが、それが妙にサマになっている。

 本来であれば、国王と王太子という二人の王族の揃う場で、彼のような人間が口火を切るのは許されないことだ。



 だがこの場では別である。

 というのも彼はそれを国王から直々に許されていたし、たとえ許されていなかったとしても、それを可能とする肩書きを有していたからだ。



 七人の内の全員が、流暢にしゃべり出す彼をほぼ同時に見遣った。



「皆様も既にご存じの通り、私は()()です。国王陛下の命により、一つの謎を解き明かすためにこの王宮に呼ばれました」



 彼の左胸には、その特異な立場を示す銀色のバッジブローチが輝いている。

 中央に恐ろしいほど繊細な細工で彫られているのは、鋭い犬の横顔である。これは即ち、身につける探偵の嗅覚が並外れて優れていることを意味する紋章であった。



 期待か、信用か、猜疑か、疑念か、恐怖か、無感動か……。

 それぞれの感情が渦巻く十四の瞳に見つめられながらも、彼は綽々と言い放つ。



「その謎とは何か? もちろん、この場に集まっていただいた方々には言うまでも無いでしょう。半年前、この国のたった一人の聖女が()()()()()()()()()()件についてですね。彼女の寝所からは、歴代の聖女に受け継がれてきた杖も無くなっていたそうです」



 あくまで淡々とした口調だった。

 しかしその発言一つに、何人かが心苦しげに眉を寄せ、拳を握る。



「これは単なる物盗りの犯行なのか……それでは事件について語る前に、私が聞き取った皆さんの証言を一つずつ紹介していきます。事件の全容を追うためには、不可欠な儀式的行為とも言えますのでね。

 そう、私の解き明かすべき謎はたった一つです。清く正しく、美しい聖女は、何故死ななければいけなかったのか?


 ――()()()()()()()()()?」



 彼はそう呟くと――挑戦的な微笑を、口の端に浮かべてみせた。



 そうして彼は語り出す。

 閉じかけられた箱の蓋を、伸ばされた彼の腕がこじ開けていく。




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