第17話 ドイツ帝国分裂の兆し
機巧暦2140年1月・ベルギー王国モンス
「そうか~ 敗れちゃったか~」
「申し訳ないドルシア」
「下がっていいよ。後は私が対策するから」
「ああ」
大敗したニーナ軍はポツダムからモンスに撤退していた。ドルシアは敗北に対してニーナを責めることなくいつも通りに接した。
「ドルシア中将、連合王国の本国軍が我が補給基地のキールを攻撃し陥落させたと聞いています。これ以上このモンスに留まるのは危険ではありませんか?」
「確かに一理ある・・・・・・・このまま留まれば餓死、迎撃すれば戦死・・・・・まさに八方塞がりね~」
「撤退命令を」
「分かった。撤退するよ~ 撤退場所はフランスね」
「分かりました」
ドルシア中将は全軍に撤退命令を出しその日のうちにモンスを去った。
その後、連合王国軍がモンスを占拠するも取り逃がしたと判断すると諦めてモンスから補給基地のキールに撤退。さらにこれ以上のドイツ帝国領占拠は国際的な批判を食らう可能性があると判断し補給基地のキールからも撤退した。
ーーーードイツ帝国ブレーメン・宮殿大広間
「さぁ!! 今日は連合王国撤退とポツダム防衛戦成功、さらにユズキ少将の意識回復を祝して飲もうではないか!!」
「「「おォォォォ!!」」」
宮殿ではシャルロットが文武百官を集めてパーティーを開いていた。ポツダム防衛戦で活躍した魔導航空戦隊もベルリンからブレーメンに戻っていた。
テーブルにはワインや豪勢な料理が並んでいた。さらにブレーメン都市の住民にも祝い酒が配られてお祭りムードになっていた。
「シャルロット様、少し宜しいですか?」
「フランソワね。どうしたの?」
「人目を憚るお話があります」
「分かったわ。廊下でしましょう」
シャルロットは一人でチビチビと酒を飲んでいると側近のフランソワからそう言われる。
廊下ーーーー
「で、何かしら?」
「これから如何なさるおつもりですか? このままブレーメンに留まるおつもりですか? そろそろ腰を上げるべきです」
「確かにねぇ~ 腰を上げるにしても魔導航空戦隊は帝国に忠義を誓っているわ。この場で謀反は厳しいと思うけど?」
「しかし今がチャンスなんですよ? イギリス連合王国は経済破綻寸前、ドイツ帝国は皇帝の権威が地に堕ち、群雄割拠に突入するでしょう。さらにイタリア、オーストリア=ハンガリーも弱体化し我らの敵ではありません。姫様、今こそ祈願成就の時です!!」
フランソワは希望に満ちた表情でそう言う。
「・・・・・・・・帝国が群雄割拠時代になるってどうして言えるのよ。ポツダム防衛戦で連合王国軍を追い払った今、帝国軍は再編可能なのよ?」
「再編するための資金は底を尽きています。さらに大臣らが皇帝の堕落ぶりにつけ込んで権力闘争に明け暮れていると聞いています。この状況で帝国に未来はないでしょう」
この頃の帝国は分裂寸前で皇室ブランデンブルク家と繋がりの深いアルフレート家、オットー家、ヘルムート家、アーチゾルテ家、アリベルト家、アレクサンドル家が皇位を狙って対立していた。戦争中は対立しつつも各家はギリギリ協力していたが戦争が終わった今対立が表面化した。
「確かベルリンの屋敷を引き払って自分らの領土に引き揚げたんだっけ?」
「はい」
「わ、分かったわ。其方の言うとおり腰を上げるわ。この地にフランス王国を建国する。フランソワ引き続き協力してもらうわよ」
「賢明な判断にございます」
シャルロットがそう言うとフランソワは頷く。




