第8話 親友
機巧暦2139年9月・ドイツ帝国帝都ベルリン郊外
列車とタクシーを乗り継ぎ、ようやく自宅に着いた。
「ただいま~」
「お帰り!! 何かされなかった!?」
「何もされてねぇよ。喫茶店で話し合ってただけだから・・・・・っておい!!」
玄関開けた瞬間、友那が脱兎の如く詰め寄ってくる。さらに犬みたいに嗅ぎまくる・・・・・
(・・・・・・・・匂いでわかるものなのか?)
「うん。大丈夫みたい」
「えぇ・・・・ああ」
「?」
友那が俺の腰辺りをガン見して時折、首を傾げる。
(あっ・・・・・ヤベぇ、元帥刀 持って帰ってきてしまった。いつもは両舎の自室に置いてくるはずが・・・・・・・・)
「・・・・・今日は何もなかったか?」
話すのが面倒臭いから話題を逸らすため元帥刀を腰から外すと壁に吊した。どっちみち話したところでわかるはずもない。なんせ俺は友那に対して軍のことや戦争や戦場での活躍ぶりは話していない。軍に入隊してある程度の高い地位にいるくらいとしかわからないはずだ。
「あっ なんか金髪で目つきが凄く悪い男性が来たよ。耳にピアスしてた。パリピな感じだったよ」
「・・・・・そんな奴 この世界に来てから見たこと無いぞ。服装はどんな感じだ?」
「白い軍服姿で腰に刀差してたよ?」
白い軍服姿は海軍関係の奴か・・・・・陸軍は黒い軍服だもんな~
「何か言ってたか?」
「よくわからないこと言ってたよ。グレイゴーストはいるかって・・・・・グレイゴーストって何なんだろ?」
「・・・・・・・そうか」
「あと明日また来るからって言ってたよ」
「会ってみないことにはわからないか・・・・・でも海軍関係者とは関わりねぇんだよな~」
まあグレイゴースト《灰色の亡霊》の名は知られてるから・・・・・・・・ただ好奇心から会いたいって言ってるだけだろうな。
ーーーー翌日
「グレイゴーストはいるか?」
「ああ・・・・・・・・俺に何か用か?」
夜遅くに扉を叩く音と共に客が来た。客は海軍服に腰には刀という出で立ちだった。
「グレイゴーストって柚希のことだったのか・・・・・久しぶりだな!!」
「あっ お前・・・・・・・・康介か!!」
「ああ そうだ」
コイツは榊原康介。
中学時代の親友であり悪友だ。中学時代から金髪にピアスという出で立ちで周りの連中より垢抜けていた。
キレイな紅の瞳をもつが目つきは悪い。性格は悪くないと思う。俺とはゲーム・オタク仲間だった。中学卒業後は俺が高校に進学したのに対して、康介は親の家業を継ぐ形となり進学はしなかった。
まあそれからお互い会わなくなったわけだが・・・・・まさかこんな形で再会するとは・・・・・・・・・
「な、なんでお前がこんな場所にいるんだよ」
「それはこちらのセリフだ。なんかちゃっかりと現地妻もいるみたいだしな。俺なんか異世界に来てからずっと独り身だぜ。羨ましいぜ」
「まあ立ち話もあれだから入れよ。友那! 茶を淹れてくれ」
「わかったよ~」
後ろにいた友那にそう言いながら俺は康介を自室に案内した。
ーーーー自室
「で? どうやってこの世界に来た?」
「俺はゲームやってたら引き込まれたな。お前はどうやって?」
・・・・・理由 言えるわけねぇよ!!
「・・・・・・・まあ洞窟からこちらの世界に来たな」
「洞窟? つーかなんで洞窟なんかに?」
やっぱりツッコまれた。
「いや・・・・・・・探索でたまたま洞窟きてたらね?」
「ふーん」
明らかに怪しまれてる・・・・コイツは変なところで察しがいい。
(何か勘づかれてなければいいが・・・・・・)
「はい! お茶持って来たよ」
「ああ ありがとうな」
「・・・・・・・・」
友那はテーブルにお茶を置くと自室から出ていった。再び男二人になる。
「さて本題に入るか。この世界は何なんだ?」
「話しを逸らすなよ? まあ現地妻のことは後で追求するからいいとして・・・・まあこの世界はゲームの世界と言った方がわかりやすいかもしれねぇな」
「ゲームの世界? パラレルワールドとかの類じゃないのか?」
「・・・・・ならお前の目線の右下にあるアイコン開いてみろ」
転移させられてからずっと気になっていたのが目線の右下にずっと”⊕”のマークが見えていた。
「開く方法がわからないんだが・・・・・・
あっ 開いた!」
触れずとも自分の意思で開閉が可能らしい。目の前に薄い水色のウィンドウが展開した。ウィンドウには所持金からレベル、スキルや体力が記載されている。
「これって・・・・・・」
「ステータスウィンドウだ。レベルやスキル、功績や地位もそこに記録されてるんだ。何かあれば自動的に更新されるシステムだ。ゲームみてぇだろ?」
康介は茶をすすりながらそう言った。
「な、なんでこんなモノが? 必要ないと思うけどな」
「まあ俺も何の意味があるのかは、まったくわからないな。でも戦場ではいくらか役に立つと思うけどな・・・・・・・・・まあ世界に順応すりゃ消えるみたいだけどな俺は消えてるから」
「なるほど・・・・・・・・・そういえば話しが変わるけど康介は所属は海軍なのか?」
「ああ、海軍少将で大使館の駐在武官って肩書きさ。お前はどうなんだよ?」
「ああ・・・・・陸軍大尉なんだが実質的には少将の身分だ。それくらいかな?」
俺がそう言うと康介は目を細めた。
「それくらいだと? 充分じゃねぇか。グレイゴースト《灰色の亡霊》の渾名もあるわけだ。聞くところによれば美人な師匠がいるって話しじゃねぇかよ。お前のが異世界ライフ勝ち組ってわけだな」
「・・・・・・・・・ただの人殺しに栄誉なんて貰っても嬉しくないな」
「戦争なんだから人殺しで当たり前だろ? ましてやお前みたいなな不死身の英雄が現れれば誰だって崇拝するだろ?」
「まあな。ハァ」
「まあ何かあったら大使館まで来い。ドイツ帝国に居づらくなったら俺の国に来ていいからな」
「なんだお前、ドイツ帝国の海軍少将じゃないのか?」
「ああ、俺は大日本帝国の海軍少将なんだよ」
「日本か?」
「ああ、まるっきり日本だ」
「・・・・・そうなのか。ならその時は世話になるよ」
「おう。それじゃ そろそろお暇しますか」
「帰るのか?」
康介はそう言うと席を立った。
「駐在武官がいつまでもほっつき歩くわけにはいかないからな」
「たしかにな」
こうして康介は帰っていった。
一応、転移仲間がいたから一安心と言ったところか・・・・・・・状況が変われば当然、敵対するハメになるが・・・・・・