第7話 善悪
機巧暦2139年9月・ドイツ帝国帝都ベルリン
「フフフ、防御魔法陣は必ずしも効果があるわけじゃない。君は少し戦い方を考えた方がいいと思うが・・・・・どうかな?」
「・・・・・・今のところはありません」
「そうか・・・・何も死に急ぐことはないぞ」
レイシアは溜め息をついた。レイシアが俺を実質的な少将にまでしたのは後方の安全地帯から指揮ができるようにするためだった。
「・・・・・・・死に急いではいません」
「君はこの戦争に何を望む? 地位か? 欲望か? 平穏か?」
わからないな。俺はいきなり異世界転移させられて戦火に身を置いている。自分が何のために生きるのか? 何のために戦争しているのか? なんて考えたこともなかったな・・・・・・
「わからない・・・・という顔だな」
「はい」
「まあこれに関して私がどうこう言うよりも君自身で答えを見つけた方がいいな。まあ一つ言うならば間違っても”正義のため”とかはやめた方がいいな」
「?」
「《正義》は諸刃の剣のような言葉だ。正義のためなら敵に対して何をしても構わないということになる。そして正義のためと言えば何をしても許される。まあ極論ではあるが《正義》と言う言葉ほど身勝手な言葉はない。覚えておくといい」
「戦争に正義はない・・・・・ということか」
「うむ。その通りだ。君も《正義の味方》よりも《悪者》になるといい」
レイシアの言葉に俺は首を傾げた。
「少将・・・・俺は少将の身分だったとしても一兵卒です。殺生与奪の権限は元帥や参謀本部が握るもの。俺には関係ないかと・・・・正義になるか悪になるかも一兵卒の俺には関係ないです」
「アハハ 今はな? でも君の器は今の少将という身分では収まりきらないはず。いずれは元帥か参謀総長・・・・・いや国を治める身になるかもしれない。だから話したのだよ。素質がない者には言わないよ」
「・・・・・・・」
「深く考えたら負けだぞ? 君は部下には深く考えるなと言っておきながら自分は深く考えて泥沼にハマる。人生は適当に楽しくやるのが一番だ」
レイシアはそう言うとニコッと笑った。こちらも思わず頬が緩む。
ーーーーその後、沈黙が流れる。
「マスター 勘定を」
「はい」
レイシアは勘定を済ませると俺にこう言った。
「さぁ 行くぞ」
「ああ」
「ありがとうございました」
店を出ると既に空は暗くなっていた。かなり長居していたらしい。その後、俺とレイシアはそれぞれの帰路についた。