第14話 独りなんかじゃない
機巧暦2139年12月・ドイツ帝国ブレーメン
(次のニュースです。昨日ヴェルサイユにおいて開かれたドイツ=フランス戦争の講和会議は各国の思惑が複雑に絡み合った結果、結論ば出ずに次回に持ち越しとなりました)
「帝国を抜きにして講和会議を開いたと言うことか・・・・・・・」
「はい。冷たいお茶」
「ああ、ありがとう」
領主を辞めた俺は別荘の庭を眺めながらラジオを聞いていると友那がお茶を持ってきた。
「領主辞めてからの調子はどうなの?」
「いつも通りだ」
「今まで激務だったからしっかり休んでね」
「ああ・・・・・・・・・戦争が無くなればこうして友那といつまでも一緒に暮らせるのにな」
「確かにそうね。私はいっそのこと何処かの無人島で暮らしたいな・・・・・・・ねぇ膝枕やって」
「はいはい」
俺の太ももあたりに友那が頭を乗せる。
「頭、撫でてくれる?」
「アハハ、普通は俺が友那にやってもらうのが普通だからな?」
「今度やってあげるから~」
「・・・・・・・・・」
無言で友那の黒髪を撫でた。サラサラとして手触りが気持ちいい・・・・・・・・・・
「ねぇ柚希、一つだけお願い事してもいい?」
「願い?」
「うん」
友那は俺の頬を撫でながらそう言う。俺を見つめる友那の目はいつもの天真爛漫な感じではなく、目の端に少し髪かかっているせいか妖艶で理知的だ・・・・・・・・・・
「私、柚希の子供が産みたい」
・・・・・・・ん? コイツ今、なんて・・・・・?
「・・・・・・聞こえなかった? 柚希の子を産みたい」
「お、落ち着け。何を口走ってるんだ。お前と俺は18歳なんだぞ。未成年が子作りしていいわけないだろ?」
「さすがに冗談でこんな事、言わないよ」
ヒッ!! 目がマジだ・・・・・・・
「・・・・・・なんでそうなった。訳を話してくれ」
「私たちはいつ死ぬかわからない状況なんだよ? 元の世界に戻れない以上、骨を埋める覚悟は出来てるわ。だけど一つ心配なのは柚希が戦死したら私が独りになっちゃうわ。だから柚希が戦死する前に・・・・・・・・」
「理解者がいなくなることを恐れて、いち早く俺との子供をつくり、育てて理解者にしようとしているわけか・・・・・・」
「うん」
「・・・・・・・俺は戦死してもいいと思う。人のために死ねるなら本望だ」
「そ、それ、本気で言ってるの?」
「ああ」
「柚希は良いかもれないそれで、でも残された者のことも考えてよ・・・・・・・・・・ねぇ柚希、最近、私から遠ざかってない? 物理的な意味じゃないわよ。精神的な意味よ。心と心の繋がりだよ」
「・・・・・・・・長らく戦場や政務に打ち込んでいたんだ。友那に構っていられる時間なんてないから・・・・・・それは仕方ないことだと思う」
「私の気持ち、わかってないでしょ?」
友那は涙ながらそう言う。実は友那も窮屈な思いをしていた。俺はリム、レム、ラム、グレイスらと戦場でぶつかり合いながらも心を互いに通わせているため普段でも信頼関係は表に出ていた。しかしその分、友那との距離は離れていた。放置しすぎたのだ・・・・・・・・政務でもプライベートでも皆がいても状況や考えがわからない友那は会話に入れず独りぼっちだった。
柚希の子供が産みたいと言うのは、心と心を通じ合わせたいと言う友那なりの考えで出た言葉で斜め上をいく強硬手段だった・・・・・・・
「・・・・・・・寂しい思いをさせて申し訳ない」
「わ、わかってくれた?」
「ああ。悪かった・・・・・・・・」
「!?」
俺はそう言うと友那の桜色の唇に自分の唇を重ねた。
「これで・・・・・・満足か?」
「うん。ありがとう」
「決してお前は独りなんかじゃない。俺や仲間がいる」
俺の言葉に友那は笑い泣きしながら頷いた。




