第12話 ブレーメン騒乱の主犯
機巧暦2139年12月・バルカン半島ギリシャ
「失敗したか・・・・・・・・・」
「申し訳ございません。新田中将」
「フフッ、仕方ないことさ。また第二、第三の手を考えればいいことだ」
榊原の言葉に新田はそう言いながらタバコを吹かした。
「フゥ~、まあ榊原少将がやったことは無駄では無いぞ。結果的には失敗したが得られた情報もあるからな」
「得られた情報?」
「ドイツ帝国の連中からすると久遠柚希は人望が厚すぎて殺すにもリスクがいるし、生かしておいてもリスクがある存在だとな。だからどうすることもできない」
「それでは排除できないじゃないですか」
「フフッそう焦るな。久遠柚希から裏切るように仕向ければ良いだけの話さ。彼が帝国を一方的に裏切れば人望は地に堕ちる。彼が窮地に追い込まれたとき味方はいなくなるはずだし集まらないはずだ。その分殺しやすくなる」
「なるほど・・・・・・・・・」
榊原は頷く。
「まさか久遠柚希と友人関係にある榊原少将が離間計画に積極的になるとはな、何かあったのか? 彼と」
「いや・・・・・・・・・俺と彼は境遇が全く同じなのに何故こうも差があるのかと」
「嫉妬の末に憎むようになったか」
「・・・・・・・はい。女にはチヤホヤされ最強の魔術師の称号は手に入れ・・・・・・・・羨ましい限りで」
「・・・・・・・何も榊原少将だけが悩みを抱えているわけではない。恐らく久遠柚希も悩んでいるだろうな。彼の人望や名誉が彼自身の首を絞めているのだからな。嫉妬や羨望の眼差しを一身に集めている・・・・・・・・・さぞ気が休まらないことだろうよ」
「アハハ、奴は至り尽くせりで悩みなんてあるはずがないじゃないですか?」
「フフッ、人望や欲望に渇望している今の榊原少将にはわからないかもしれないな。まあ後悔しないように上手くやれ。久遠柚希を味方に出来るとは思っていたがその状況では殺すしか手段がないな」
新田はそう言うと統監府を出ていった。
榊原はバルカン半島に着任してから善政をひいたため評判や人望はうなぎ登りになっていた。しかしまだ久遠柚希には遠く及ばなかった・・・・・・・・・
そのため榊原は久遠柚希とその仲間や上官らの仲を引き裂くためにブレーメン騒乱の元になる書状をドイツ帝国の間者を通じてブレーメンや西プロイセンの貴族や民衆にバラ撒いたのだった。
「ハァ、天才の悩みを凡愚が理解しようなど愚かな事だ。凡愚の悩みを天才が理解しようなど不可能だが・・・・・・・・・・・・・永遠に彼らはわかり合えないだろうな」
新田はそう呟いた。




