第10話 反乱の扇動と鶺鴒の花押
機巧暦2139年12月・ドイツ帝国帝都ベルリン
「臣下・ユズキ=クオンが陛下に拝謁します」
「顔を上げよ」
「はっ」
上奏文を送ってから3日後に俺はイリアスから呼び出しを受けていた。
「少将からの上奏文は読んだぞ。一応、家臣らにも意見を求めて決めた結果、すべての要求を呑みむことにして此度のブレーメンでの騒乱は不問とすることにした」
「あ、ありがとうございます」
「うむ。ブレーメンはこれで片がついたな。それでは別件・・・・・というよりブレーメンに関する件なんだが・・・・・・・・・・」
イリアスはそう言うと家臣に目配せした。
「これを・・・・・・・・・」
「?」
家臣が俺に1通の書状を渡してくる。
カサッ カサッ
「これは?」
「その書状に書いてある通りだ。お前がブレーメンでの反乱を扇動したのであろう?」
「こんなモノ・・・・・・・どこから」
「お前がブレーメンに移る前に住んでいた寮から出てきたのだ」
書状には貴族らの悪行と帝国の弱体化を悲観し、正義を掲げて西プロイセンと東プロイセンの境にあるブレーメンを中心に民草を扇動。俺は反乱勢力を拡大させ、いずれ西プロイセン、東プロイセンを占領して帝都ベルリンに圧をかけると書いてある・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・アハハ、陛下!! これは根も葉もない嘘にございます!!」
「筆跡やサインまでお前のモノだ。嘘なわけあるか」
「本人が嘘は嘘と言っているのだ!! 偽りなどあるか!!」
「・・・・・・・ならば聞く。なぜこの書状を送った民を賊軍として始末した? 明らかな証拠隠滅であろう?」
イリアスは半ばイライラしていた。
「俺は西プロイセンの西郡で貴族らに協力した連中を始末しただけです。書状の送り先なんか知りません」
ちなみに俺が出す書状はすべて筆書きで終わりには鶺鴒花押を書いている。タイプライターはあるが偽造防止のため敢えて筆書きにしている。今回もフランソワが文書を打ち、俺が文書を元に新たに筆書きして花押を書いている。
・・・・・・・・筆跡から花押まで似せて書ける奴なんているわけない。
「ならばこの書状が偽物であることを証明できる証拠はあるのか?」
「証拠はあります。少しお待ちを・・・・・・・・」
俺は書状を上に向けた。
やはり・・・・・・・・・筆跡やサインはマネ出来てもここまでは気付かなかったか。
「陛下やはりこれは偽物です。俺のサイン・・・・・・まあ花押って言うんですが鶺鴒の形をしているんですよ」
「セキレイ?」
「鳥のことです。鳥の目に当たる部分に針で穴を開けているのですが・・・・・・・この書状には針の穴は開いていません」
イリアスは家臣から書状を受け取ると透かして見た。
「た、確かに無いな・・・・・・・嘘はついていないようだな・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「疑って悪かった。この件は不問とする」
こうして俺の反乱扇動疑惑は晴れた。しかし誰がこの書状を書いて西プロイセンの民衆にバラ撒いたか不明なままだった・・・・・・・・・・