第9話 叱責と降格処分
機巧暦2139年12月・ドイツ帝国ブレーメン
「・・・・・・・・・」
「どうなされました?」
「いや・・・・・・・リム達は戻ってきてるのか?」
俺は玉座に座り平定軍からの報告書を見ていた。
「いえ、まだという話です。今日にはブレーメンに到着するかと思います」
「そうか・・・・・・・・・・到着したら直ぐに広間に案内してくれ」
「わかりました」
報告書には目を覆うような事が書かれていた。リムがやらかしたのだ。
その後ーーーー
「親父、只今戻りました。特に損害なく平定できました」
「・・・・・・・・お疲れ、報告書は読ませてもらったよ」
東郡、南郡、西郡から戻ったリム、レム、ラムは俺の前に跪いた。彼らの前には貴族の首が入った首桶が置かれている。
「東郡、西郡、南郡の貴族らは斬首いたしました」
「・・・・・・・・・・やはり抵抗したのか?」
「「「はい」」」
3人は声を揃えてそう言う。
「報告書だと貴族らは妻子らの命と引き換えに降伏したとあるが? お前らは戦意がない者、まあ降伏してきた者を容赦なく斬ったということだな?」
「命を引き換えになので・・・・斬りました・・・・・・・・」
レムが消え入りそうな声で呟く。
「そうか・・・・・・それでその後お前らは何をした?」
「「・・・・・・・・・・」」
「お前らの口から言え」
「奴らの妻子を斬りました・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
コイツら、やりやがったか・・・・・・・
「親父?」
「・・・・・・・・」
俺はリム達から背を向けた。怒りが爆発しそうだった・・・・・・・これからの統治がハードモードになったじゃねぇか
「親父、こうするしかなかったんです」
「貴様らは妻子の命と引き換えに死んだ貴族どもの心中を考えなかったのか!?」
「・・・・・・・・・・いえ、それは」
「特にリム!! 貴様は西郡でやらかしてくれたな!!」
我慢していたがついに怒鳴っしまった。
「降伏した者はおろか、非戦闘員も皆殺しにしたらしいな!! そのやり方で人心を得られるとでも思ったか?」
「い、いえ・・・・・・親父、皆殺しにしなければ我らに刃向かう輩も出てきます。これは親父や仲間を思っての非情の決断です!!」
「だからといって女どもを兵士たちに陵辱させたと聞くぞ!! 兵士たちは女どもを大喜びで犯したそうだな。屈辱を与えて虐殺とはな! 何が俺や仲間の為だ!! 逆に奴らに恨まれる結果となったことがわからないのか!!」
「綺麗事なんて言ってられません!! 殺されたくなければ、先にこちらから殺すまでの事です!! 私はそれを実行したまで!! 甘い考えでは奴らは牙を剥きます!!」
リムは怒鳴られても萎縮せずに反論してきたがレムとラムは怯えているようで跪きながら俯いていた。
「くっ・・・・・もういい!! 俺は奴隷出身のお前らがこの世界の残酷さを誰よりもわかっていると思った。だから平定軍の指揮官を任せたんだ・・・・・・・人の痛みがわかると思ってたんだ。それが裏目に出るとは・・・・・・・」
人間としても将としても器が小さすぎる・・・・・・奴隷出身で人間の汚い面しか見てこなかったから仕方が無いと言えば仕方が無いが・・・・・・・・
「「「・・・・・・・・・・」」」
「俺の期待と領民の期待を裏切ったとしてお前ら3人を斬首とする!! 執行官、コイツらを城外に引きずり出して首を刎ねろ!!」
「柚希!! それはやりすぎよ!!」
「どうか命だけはお助けを!!」
「さっさと首を刎ねろ!!」
俺の言葉にグレイスと友那がそう叫ぶ。周りの家臣らも助命嘆願し始める。
「お待ち下さい。ユズキ様」
「?」
広間中が混乱している状況でフランソワがそう言う。
「確かに少尉らがやった事は許されません。罪無き民草を虐殺するなど言語道断でございます。しかし少尉らはユズキ様に良かれと思ってやったこと。斬首は撤回しては?」
「それでこの場は収まったとしても陛下や民には何と言えばいいのだ!! 申し開きのしようが無いだろう!?」
「帝都の陛下には亡くなった貴族らの爵位昇格を上奏するのです。貴族らの地位は伯爵ですから一段上げて公爵にするのです。さらに少尉らの降格と貴族らの墓の前で謝らせるのです」
「上奏文は誰が書くんだ?」
「フローレンス大将に書かせます。彼は達筆ですから必ずや良い文が書けましょう」
「・・・・・・・フローレンスが断ったらどうするか?」
「その時は私が上奏文を書きます」
フランソワは自信満々にそう言う。
「上奏文の名は俺の名前にしてくれ」
「っ!! ・・・・・・わ、わかりました」
フランソワは一瞬マ抜けた表情になったが少し微笑んだ。
「リム、レム、ラム、お前らに降格を命じる少尉から准尉に降格だ。あと貴族らの墓前で土下座すること、1週間は酒と女は絶つことを命じる。良いな!!」
「ありがとうございます!!」
こうして何とかこの場は収まった。
ーーーー洋館・廊下
「フランソワ元帥、先程はありがとうございます」
「ん? リム准尉か。私が半ば強引に意見を通したまでのことです・・・・・・・・礼は要りませんよ」
広間からフランソワが出ていくとそれを追いかけるようにリムがやってきた。
「元帥、一つ腑に落ちない点がありまして・・・・・・」
「腑に落ちない点?」
「はい。親父は長年の付き合いであるユウナ様やグレイス中尉の言葉には耳を貸さず元帥の言葉には耳を貸しました。なぜです?」
「ユウナ様やグレイス様は長年に渡ってユズキ様を支えてこられた方々、ユズキ様にとっては身内同然の存在になります。となると身内特有の主観が入ってしまい判断を誤ることがあります。ユズキ様はそれを避けるために二人の意見を聞かず赤の他人である私の意見を取り入れたのでしょうな」
「・・・・・・・・」
「浮かない顔ですな。他に何か?」
「今回の件で俺は親父に嫌われたかもしれないと思って・・・・・・・・・・」
「ハァ、リム准尉はユズキ様の何を見ているやら・・・・・・ユズキ様はリム准尉を気に入っておられるのだぞ。此度の降格処分も立派な一軍の将として育て上げるための処分だ」
「・・・・・・・そ、そうなのか」
リムは安心感からか少し気の抜けた声を出した。
「まあこれから頑張りたまえ」
「ありがとうございます」
フランソワはそう言うとリムの肩を叩いて去って行った。




