第41話 弓王シルティア
機巧暦2139年11月・ベルギー王国モンス
そして今に至るーーーー
「おお危ない危ない。間一髪だったか・・・・・・・アンタが弓王・ユリウス=シルティアか!?」
「そういう君は灰色の亡霊、最優の騎士と呼ばれているユズキ=クオンね?」
「ああ、そうだよ」
俺の問いかけにシルティアはそう言う。
・・・・・・・・・救国の剣と護国の盾は併用が出来ない。守りを捨てて攻めをとるか、攻めをとって守りを捨てるか・・・・・・・どうすればいいか。考えてる暇なんてねぇ!! 目の前の敵を倒せばいいだけだ・・・・・・・・・・なら答えは一つ!!
「祖国を護るために我は剣とならん!! 救国の剣!!」
両腰の刀を引き抜き魔力を流す。刀身が焼けた鉄の色に変わる。
「交戦開始!!」
荷台から飛び降り魔術宝珠のピンを外す。体が僅かに宙を浮き、飛行状態となるそして一気に加速する。シルティアとの距離は500メートルくらいだ。
一気に追い詰めてやらぁ!!!
「アハハ、面白い~!!」
シルティアはそう言うと弓を構え特に狙うこともなく矢を乱れ撃ちする。
「くっ!! はァァァァァ!!」
ガキン!! ガ、ガキン!! バキッ!!
こちらに飛んでくる矢を刀で次々と叩き落とす。
「え? ヤバい間合いを詰めれてる!?」
シルティアは動揺すると構えていた弓を上に向ける。
「これで死んじゃえ!! 刺し貫く聖なる血雨!!」
「・・・・・!? 護国の盾!!」
上から次々と矢が雨のように降ってくる。俺は咄嗟に救国の剣を解除する。
バキッ バキッ バキッ バキンッ!!
盾が耐えられるか心配になるレベルの威力が襲い掛かる。盾を外れて地上に落下した矢は爆発を起こし地面に小さなクレーターが出来ている。当然、戦車や自走砲は次々と吹き飛ばされる。
「うぐっ!! くっ!!」
すべてを避けることは難しく矢を食らいつつ潜り抜けると再び救国の剣を発動させた。
「もらったァァァァァ!!」
「なっ、なんで?」
バキッ!!
刀を振り上げ、命一杯シルティアの弓に叩き付けた。
ビキッ! ビキッ! ビキッ!!
シルティアは弓を横に構え刀をガードしていた。鍔迫り合いとなる。
ガキッ!!
シルティアが後ろに退いたことから鍔迫り合いから解放される。
・・・・・・・コイツの持ってる弓、簡単に折れねぇってことは魔術か何かの類か
「はぁはぁはぁ」
「・・・・・・・・お姉ちゃん!! やっちゃって!! うぐっ!! キャァァァァ!!」
ドサッ!!
姉の方を向いた瞬間を狙って俺は間合いを詰めると腹に拳を叩き込み、さらに怯んだところで地面に蹴落とした。シルティアが落下したあたりに砂塵が舞う。
「・・・・・・女の子の腹を殴るなんて酷いやり方ね?」
「何が酷いだ。戦場に出てる以上、男も女も扱いは同じだ。酷いも何もあるか! つーかアンタの方が酷いと思うぜ?」
シルティアとの戦闘を静かに眺めていた姉のアルテミスがそう言う。
「それはなぜかしら?」
「妹がボコボコにされているのに助けることか見てるだけだからな」
「ふん。私はシルティアが強い人物だと知っているから助けないだけよ。 ・・・・・・・? こちらアルテミスどうしたの? え、ええ、ええ、わかったわ」
「?」
「申し訳ないけど貴方に構っている暇が無くなったわ。これでお暇するわ」
アルテミスは無線で何者かと話した。話し終えると俺にそう言う。その後、気絶しているシルティアを回収して撤退した。
・・・・・・どうしたんだ?
「うん? こちらユズキ」
(レーゲルだ。すぐに戻ってこい。陛下から停戦命令が出た。これ以上、共和国軍と戦う必要はない)
「わ、わかりました」
そうか・・・・・・・共和国軍の方でも停戦命令が出たからアルテミスは撤退したのか・・・・・・・・
その後、第一師団、第二師団、第一航空戦隊はモンス要塞を撤退した。エルザスとロートリンゲンを守備していた第五師団、第六師団と南フランス軍も撤退となった。北フランス軍も西フランス軍もイギリス連合王国の要請によりそれぞれの軍事拠点を放棄し首都に撤退した。