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機巧魔術師の異聞奇譚  作者: 桜木紫苑
序章 異世界召喚
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第4話 実戦は訓練、訓練は実戦

機巧暦2139年9月・ドイツ帝国帝都ベルリン



「ユズキ大尉は西部戦線を担当してもらいたい。そのために選りすぐりのエリート将校を君に預ける。本日より君を再編した”第一航空戦隊”に配属しグレイス中尉を副官として配属する」



「戦隊の数はどれ程で?」



「君の部隊は本作戦の要となる。一個師団《2万》を預けるつもりだ」



参謀総長のヘルムート=ヴィーリッヒは笑いながらそう言った。参謀総長の隣にいるレイシア少将も君なら出来るみたいな眼差しで見てくる。



帝国は西部戦線を”ELプラン”、東部戦線をSTプラン”と名付けていた。ロシア=ソビエト連邦の東部戦線は不可侵条約締結によりひとまず片づき、次はフランス共和国の西部戦線が主戦場となる。



「わ、わかりました。奮励努力致します」



「うむ」



「では失礼致します」



「ああ、待って・・・・・」



「ん?」



俺が執務室の部屋を出ようとするとレイシアも付いてきた。



それから何となく廊下を二人で歩いていると・・・・・



「これを君に授ける」



ガチャ



「これって・・・・・・陸軍の元帥刀じゃ・・・・」



「父上の形見だ。君には私の父上のような人物になってもらいたいのだ」



レイシアは腰に吊していた煌びやかに光る軍刀を外すと俺に渡した。



「それは・・・・・いくらなんでも」



「父上は陸軍元帥でな。私の憧れの存在だった。今回のELプランは勝てるかわからない作戦だ。父上が生きていたら反対しただろうな・・・・・」



「・・・・・・・・・」



「父上が持っていた幸運と実力は如何なる困難も乗り越えられるものだ。君もそれにあやかるがいい。必ず生きて帰ってきたまえ」



レイシアはキリッとした表情だがその瞳には涙が浮かんでいた。異世界転移してから俺を陸軍に招き入れあれこれ教えてくれたのはレイシアである。俺にとっては恩人でもあり師匠でもある。 



レイシアにとっては弟子であり弟のような存在だった。彼女の父親は2066年のプロイセン()オーストリア()戦争、2070年のプロイセン()フランス()戦争でプロイセン王国を大勝利に導いた陸軍大元帥で《ドイツ陸軍の父》と呼ばれている。



尊敬する父親を亡くし、今の帝国陸軍は無能ばかりでプロイセン王国時代の有能な軍人は皆無だった。《父親が築き上げたモノが音を立てて崩れ去る》その事を悔しく感じていたレイシアは若くて先のある俺に希望を見いだしていたのだ。



「期待しているぞ・・・・未来の陸軍元帥よ」



俺が立ち去ると一人残されたレイシアはそう呟く。大切な弟子を死地に送り出す・・・・・・・きっと腸が千切れる思いだっただろう。



 《EL》とは元フランス共和国の領土であるエルザス(E)とロートリンゲン(L)のことだ。プロイセン()フランス()戦争に勝利してからは帝国の領土となっていた。



戦争になれば”EL”を真っ先に奪い取りに来るであろう共和国軍を帝国陸軍の精鋭で食い止める。そして別働隊を四つに分けて共和国の首都パリの北と南を通過して大きく旋回して”EL”奪還に夢中な共和国軍の背後を突こうという作戦だった。





片翼包囲・・・・・これが帝国が描いた戦術だった。





そして現実的な補給線を無視した作戦でもあった。鉄道や自動車を使えば補給可能だが、なんせ作戦行動範囲が広い。道中で襲撃されることも有り得るが参謀本部は対策を考えていなかった。



「大尉、新兵に挨拶をお願いします」



「わかった」



グレイスに促され俺は元帥刀を腰に吊すと総勢2万の軍勢の前に立った。



「なんだ新しい大尉は女性なのか」



「大尉・・・・なのか? あれ元帥刀じゃ・・・・・」



「可愛いじゃん!」



「うちの娘くらいの歳に見える」



軍勢からそう聞こえてくる。



(・・・・・アハハ、俺 こう見えても男なんだけどな~)



腰あたりまで伸びた艶のある銀髪にくっきりな二重まぶたに緑色の瞳に長い毛・・・・・・・たしかに女性に見えなくもないかもしれない。



「陸軍大尉の久遠柚希だ。早速だが貴官らには演習を行ってもらいたいのだ。たまたま海軍の砲兵隊が旧式の砲弾を大量に抱えているらしくてな。そこで貴官らには首都ベルリンから北のキール軍港まで徒歩で行って欲しい。なお道中には色々なトラップがあるから気を付けること」



ドイツ帝国の首都ベルリンから軍港のキールまで約294キロはある。



「なんだ男なのか・・・・・」



「なんかガッカリした」



「いや《男の娘》という可能性はあるぞ」



「おぉ 同士よ!! 銀髪の男の娘は至高だからな」




(・・・・・コイツら、本当にエリート将校か? エリート変態の間違いじゃねぇのか・・・・・・・・)




「話してる暇があるならさっさと任務を遂行しろ!!」





「「「はい」」」





総勢2万の軍勢による大規模な新兵訓練が始まった。







ーーーーそして訓練は過酷を極めた。





「ギヤァァァ」



「うわっ!?」



「逃げろォォォォォォ」



「俺らを殺す気か!?」



山岳地帯にそんな声が木霊した。



「ユズキ大尉・・・・これはやり過ぎでは?」



「戦場はこれ以上過酷だ。こんなことで悲鳴をあげていては使い物にならないだろ」



「・・・・・たしかにそうですね」



俺とグレイスは一足先に山岳地帯に来ていた。上空からは山のあちらこちらが爆発しているのがよく見える。一応、演習という形にはなっているが使っている砲弾や銃弾は演習用ではなく実戦で使うものだ。





つまりーーーー当たれば即死だ。




砲兵部隊は容赦なく砲弾の雨を浴びせる。さらに上空からは俺とグレイスで銃弾の雨を浴びせる。



「さーてキール軍港に着く頃にはどれくらい残るかな? アハハ!!」





ガコッ!!




「大尉・・・・・サイコパスすぎます!」




後ろにいたグレイスから鉄拳制裁をくらう。



「グハッ!! し、仕方だろ? こうでもしないとマズいだろ? やたら生半可な訓練した後に死地に追いやるのと、多少死ぬくらいの勢いで訓練した後に死地に追いやるのとでは違うぞ。前者のがよっぽどサイコパスなんだぜ。なんせ兵士を捨て駒にしか見てないなんだからな。俺は兵士を捨て駒にはできない。家族同然で扱いたいんだよ」



「ハァ、普段から素直になればいいものを・・・・・・・不器用すぎますよ? 兵士たちは大尉のことをえげつないことを容易くやるような指揮官だと思ってますよ? 冷酷なフリをするのはやめてくださいよ?」



(俺は冷酷じゃないんだ・・・・・・・厨二病なだけなんだよ!!)



まあ自分を偽らないとやっていけない世界だ。本心さらけ出したらそれこそ自我と精神がぶっ壊れる。



「冷酷じゃないとやっていけないだろ?」



「あ、あと言い忘れてましたが通信・・・・・・・繋がってますけど大丈夫ですか?」



(・・・・・あっ!!)



もし何かあった時のためにレイシアから通信機器を持たされていた。もちろんリーダーを任せている新兵たちにも渡されている。



通信を切るのを忘れていた・・・・・・本心がただ漏れである。新兵にもレイシアにも・・・・・・



「アァァァァァァァァ!!」



恥ずか死ぬ。思わず女子のような悲鳴をあげてしまう。








そしてーーーーー





「大尉! 任務完了しました。負傷者はいますが死者は出ていません」



「ああ・・・・・・・」



キール軍港に少し遅れて到着すると総勢2万の軍勢が勢揃いしていた。



なんか・・・・・演習始める前より皆の顔がツヤツヤしてる。 



「ああ大尉、一つ言い忘れてましたが」



「なんだ?」



「この軍勢は決して裏切ることはありませんからご安心下さい」



コイツ・・・・裏切った第二航空戦隊のことを引き摺っているのか。



「グレイス、俺は別に裏切られようが平気だ。軍勢が俺を見放すなら別に良いじゃないか。軍勢が裏切る時は俺に非がある時だからな」



「・・・・・・・・大尉は気にしてないのですか?」



「そんなこと気にしてたら切りが無いだろ? 過去を見つめるより未来を見つめた方が自分のためだしな。ただひたすら先を見て進めばいいんだ。必ずゴールはあるし」



「「「大尉 我らは大尉に死ぬまで付いていきます!!」」」



「ああ、お互い宜しく頼む!!」



「俺らのことを大切な家族と言ってくれましたからね」



「大尉! これから宜しくお願いします」


 

グレイスと俺の会話を聞いていた新兵たちはそう言った。



「ああ、今日は撤収するぞ!!」



こうして俺は一個師団(2万)を率いることになった。肩書きは尉官クラスの《大尉》だが実際は佐官クラスを飛び越え将官クラスの《少将》となっていた・・・・・・・

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