第39話 天真爛漫な愚妹
機巧暦2139年11月・ベルギー王国西フランス軍
「お姉ちゃん! どう? 大丈夫? 順調かな~?」
「・・・・・・・」
シルティアがアルテミスにそう言う。二人とも魔術宝珠の魔力で上空から自軍を見下ろしていた。眼下には西フランス軍自慢の列車砲がある。発射するのに総勢4千人を擁し、4時間に1回発射可能というものだった。
「特に問題ないわね。シルティアはどう?」
「ん~、大丈夫そうだよ! 敵は劣勢だしあんまり心配することないでしょ?」
「・・・・・・・・まったく貴方は楽観的すぎじゃない?」
アルテミスは溜息をついた。
「えへへ、楽観的なのが私の取り柄なんだよ! およっ? お姉ちゃん、敵が要塞から出てきたよ!!」
「うそ!? この状況で敵はまだやる気なのかしら。シルティア、貴方は要塞から出てきた敵軍を頼むわ。私は列車砲を見張っているから
「ん。わかったよ」
笑みを浮かべてシルティアはそう言う、シルティアはドイツ帝国軍の相手をすることになった。アルテミスは引き続き列車砲とその周囲の警戒にあった。
ーーーーシルティア側
「さぁ~て、少し観察するの有りかな?」
モンス要塞からバラバラに打って出た帝国軍は次第に纏まり始め、陣形の全容が見え始める。左右に機甲部隊、中央に歩兵部隊を配置し歩兵部隊の前には散兵を配置している。
「へぇ~、そう来るならこっちも同じに配置しようかな~。皆さん仕事ですよ~!! 左右に機甲部隊、中央に歩兵部隊で整列してね~」
シルティアは無線機にそう呼びかけた。眼下の西フランス軍が慌ただしく動き始める。そして帝国軍と同じ陣形になった。
「どうするんだろな~ ん!?」
ドイツ帝国軍は先に左右の機甲部隊を西フランス軍の機甲部隊にぶつけた。さらに散兵がバラバラに西フランス軍の歩兵部隊に銃剣突撃をしていく。しかし数も質も西フランス軍が上だったため散兵は壊滅した。
「アハハ、無駄死にで終わったね~!! アハハ笑える!! さぁ~歩兵部隊突撃開始しちゃお~!!」
シルティアは無線機でそう叫んだ。西フランス軍の全ての歩兵部隊がドイツ帝国軍の歩兵部隊に全力で突撃をかます。
「よ~し!! そのまま突き崩しちゃぇぇぇぇ!!」
押しまくった西フランス軍の歩兵部隊は帝国軍の歩兵部隊中央をへこました。この時点で西フランヌ軍は「∧」の字型になり、ドイツ帝国軍は押されて「∨」の字型となっていた。
「あっ! ヤバいかも~ 皆!! 左右の敵兵に気をつけてぇぇぇぇぇぇ!!」
シルティアが無線機でそう言うが、無線機からは態勢が立て直せません無理ですという声が聞こえる。西フランス軍の歩兵部隊は中央ばかりに視線が集中していて左右から挟み撃ちしようとしているドイツ帝国軍に気付かなかったのだ。気付いた時には時既に遅しな状況だった・・・・・・・・・・
「え~・・・・・・・困ったな~、機甲部隊はどうだろ?」
シルティアは小競り合いしている歩兵部隊から視線を左右の機甲部隊に移した。
「あれ? 機甲部隊?」
左右にいた西フランスの機甲部隊が敗走していた。あちらこちらに炎上し大破した戦車や自動車が遺棄されている。機甲部隊はドイツ帝国軍側のが強かったのだ。速さをとって装甲が薄い西フランスの戦車では帝国軍側の速さは無いが装甲の厚い戦車を破壊することは困難だった。
帝国軍の機甲部隊は既に小競り合いをしている西フランス軍の歩兵部隊の背後を突こうとしている。背後から砲撃されれば全滅は必須だった。数が多い上での油断だった・・・・・・・・・・
「あちゃ~ アハハ・・・・・・・完全にしくじったかも~」
(シルティア? そちらは順調?)
「げっ お姉ちゃん・・・・・・えへへ」
無線機からアルテミスの声が聞こえる。シルティアは冷や汗をかきながらそう言った。
(その様子だと失敗したようね・・・・・・・・はぁ~まあ仕方がないわね。あとは北フランス軍に任せて貴方は生き残った西フランス軍を集めて撤収しなさい)
「は、は~い」
アルテミスの指示によりシルティアは完全包囲されている歩兵部隊を見捨ててわずかに残った機甲部隊に撤収を命じた。
ーーーー西フランヌ軍
「たしか貴方に五個師団《10万》のうち三個師団《6万》を与えたわね。どれくらいの損害が出たのかしら?」
「え~と歩兵部隊が全滅してるから~ 間違いなく二個師団《4万》は失ったことになるね」
「・・・・・・・・・敵はどれくらいの兵力だったの? 上空から見ていたのならわかるでしょう?」
「敵はかなり少なかったと思う。一個師団《2万》くらいだったと思うよ~ それぞれの部隊が上手いこと連携してガッチリと包囲してたよ~ あれこそ戦争の芸術と言うべきものだと思うな~」
撤退したシルティアはアルテミスから問い詰められていた。残存兵力はすぐに列車砲の装填作業にまわされた。
「一個師団《2万》で二個師団《4万》を包囲殲滅したと・・・・・・・その卓越した戦術ができるほどの能力があるとは敵ながら感心するわね」
「お姉ちゃん感心している場合じゃないよ!」
「はいはい、誰のせいでこんなことになったか考えてから発言しなさいよ」
「は~い。反省しま~す!! ところで列車砲の発射準備は終わったの~?」
(アルテミス中将、装填完了しました。号令があり次第、発射できます)
アルテミスが持っていた無線機から作業完了の報告がきた。
「お姉ちゃん、敵の機甲師団がこっちに来るよ? どうする?」
前方200メートル地点に砂埃がたち、砂埃の隙間からチラチラと砲塔が見える。
「え、機甲師団? 貴方が討ち漏らした部隊かしら・・・・・・・」
「・・・・・・・はぁ、自分が始末は自分でやるよ。見ててお姉ちゃん! 今度こそ私が奴らの息の根を止めて見せる!! 聖弓!!」
異空間から紅い弓を取り出す。本体だけで矢があるわけではない。
「魔術を使うのね」
「さっさと終わらせたいからねぇ~」
シルティアはふざけながらも聖弓を構えると弦を自分の頬まで引く。いつの間にか弦に紅い矢をつがえていた。実体のない光の矢だ。
そしてーーーーー
「刺し貫く聖なる血雨!!」
限界まで引き絞った弦を放した。紅い矢は弦を放れると10本、20本、そして30本に分裂した。誰もが機甲部隊に降り注ぎ全滅すると思った。
しかしーーーーーー
バキッ!! カキンッ!! バキッ!!
「?」
「なに!? な、何なのよ!! あの紅い盾みたいなやつ~ 邪魔なんだけど~!!」
機甲部隊に矢が降り注ごうとした瞬間、機甲部隊を守るように広範囲に紅い盾が展開していた。直径5メートルの紅い盾が7枚、バラバラに展開しながらもキッチリと壁の役目を果たしている。
「魔術師の仕業だな。出てこい何者だ!?」
アルテミスが警戒しながらそう言う。シルティアも再び弓に紅い矢をつがえた。
「おい! あれを見ろ!!」
「なっ!?」
「アイツ!!」
西フランスの兵士がにわかにざわつく。兵士達は双眼鏡で敵機甲部隊の後ろ側を見ているようだった。
「あれは~?」
シルティアが何かを見つけたらしく指を差す。
「あれは・・・・・・・」
1台のトラックの荷台に一人の青年が立っていた。白い軍服に両腰には黒い刀・・・・・・そして何より特徴的なのは腰まで届く銀髪。
「最優の騎士、灰色の亡霊・・・・・・・・・」
「え!? じゃ~アイツが!?」
「・・・・・・・・・・」
アルテミスは険しい表情をした。部隊が壊滅状態になったとしてもシルティアや私の2人で戦局を覆せる状況だった。しかしそれ敵に魔術師がいなければの話だ。今、敵の魔術師が出てきたとなれば目論見は全て外れとなる。