第34話 暴かれた秘密
機巧暦2139年11月・ドイツ帝国帝都ベルリン郊外
「レイシア少将・・・・・・・」
「2人きりの時は呼び捨てにしてくれって言ったではないか?」
「ちょっ!?」
「むぐっ!!?」
「?」
友那も2人きりではないため俺はレイシアの口を手で押さえた。友那は何事かと首を傾げていた。
「ふむ! ふむ!! むむむ!!」
レイシアは顔を真っ赤にして分かったと必死に顔を縦に振った。俺はようやく手を退けた。後で仕返しが怖いが、傍にもっと怖いのがいるため気にしなかった。
「ふぅ~ で、なんです? いきなり我が家に押しかけてきて」
「アハハ、君に良い知らせを持ってきたのだよ」
「いい知らせ?」
俺は友那が持ってきたコーヒーを飲んだ。
苦い・・・・・・・・いつもは砂糖を入れるくせになんで今日に限って・・・・・・・・まさか悟られたか?
恐る恐る友那に目を移すと当の本人は涼しげに何もなかったようにしている・・・・・・・かと思ったが嫉妬しているのか脹れっ面になっている。
「君は聞いているかわからないが、陛下がイギリス連合王国、フランス共和国と講和を結ぶことになった。既に講和条約も決まったも同然になった」
「それじゃ、俺の役割は!?」
「膠着状態になってから君を戦場にと思ったのだがその前に陛下が動き始めていてな。私も思うように動けなかった。申し訳ない」
「なんでレイシアさんが謝るんですか~? 戦争が無くなるなら万々歳では?」
友那はそう言った。
「フッ、そこのお嬢さんは今現状のユズキのことに関して何も知らないのか? 君も何も話していないのかね?」
「いえ、陸軍に所属していることしか聞いていなくて柚希の活躍とか役職とか交友関係はまったく聞いていませんね」
友那がそう言うとレイシアは溜息をついた。
「今日はいい機会だから私から全て話してやる。ユズキは余計な口を挟まないようにな」
「・・・・・・・・・・はぁ」
気の抜けた声が出る・・・・・・・・・・・
「お嬢さん、この世界にいるなら灰色の亡霊って言うのは聞いたことあると思うが・・・・・・・どうかな?」
「灰色の亡霊・・・・・・たしか救国の英雄とか聞いたことがありますね。それと柚希に何の関係があるんですか?」
「ユズキが灰色の亡霊なんだよ。今の彼の肩書きはドイツ帝国陸軍少将・第一航空戦隊隊長だ。そしてポツダム高等士官養成学園の戦術科臨時講師だ。信じられないかもしれない事実だ」
「・・・・・・・・・・へ!?」
当たり前だが友那は口をパクパクさせている。そしてカクカクと顔を俺の方に向けた。
「土地を一喝購入したらしいが、その時に怪しまなかったのか? これほどの資金がなんであるのかと、あったとしても何処でどう生み出したか疑問に思わなかったのかね?」
「まさかとは思わなかったんですよ! 私の彼氏が国民的英雄なんて、柚希は平凡で馬鹿でスケベでどこにいるような青年なんですよ? それが国民的英雄なんて信じられるわけないじゃないですか~ アハハ」
友那・・・・・・・・さり気なく俺をディスるなよ。まあ事実だけどな。
「まあともかくユズキは英雄なんだ。今回の戦争でも活躍させたいと思っていたんだが、活躍させられる舞台が無くてな、ずっと悩んでいたのだよ」
「・・・・・・・・それで悩んだ結果、活躍するのは今だと? 講和条約締結前に大暴れしたらヤバくねぇか?」
「いや大暴れしてもらって有利に講和に持ち込みたいと考えていてね。今の講和条約は帝国に不利なのだ。全部を呑むわけにはいかないのだ。大暴れしてこちらの力量を見せつけておけば、いくらか敵側が講和条件を譲歩してくだろうと考えたのだよ」
「なるほど・・・・・・・」
「柚希を政治利用するつもりですか!? 戦争と外交は別だと思うんですけど?」
「ちょっ!! 友那!!」
「柚希も自分が良いように利用されてることに気づかないの?」
「それは・・・・・・・・・」
「この雌狐も柚希を誑かして散々利用した挙げ句、使えなくなったら捨てようとしてるのよ!!」
「口を慎め! 仮にも俺の師匠なんだぞ。いい加減にしろ!!」
「2人とも話しているところ悪いが、一ついいかね? 特にお嬢さんの方に言いたいことがあるんだが・・・・・・・」
俺と友那の言い争いを静かに見ていたレイシアはそう言った。珍しく少し困っている様子だった。
「友那の言うことは間違えだ。戦争と外交は別ではない。外交=戦争で結びつけられる。外交によって戦争にもなるし、戦争を外交によって終わらせることもできる」
「・・・・・・・・・柚希の政治利用はどうなんですか?」
友那・・・・・・目が据わってるゾ
「英雄にもなれば国際的な地位も上がるし政治的にも影響力が大きくなるのだ。私もユズキを政治利用しないようにはしているが戦争の抑止力として使おうとしていることは事実だ。もし私がユズキを捨てようと思えば全てを剥奪して野に放つことも簡単だ。それをやらないのは弟子という愛情があるからだよ」
レイシアはそう言うと溜息をつきタバコを吸い始めた。