第30話 戦争終結への道
機巧暦2139年11月・ドイツ帝国帝都ベルリン宮殿広間
「皆の者、内務大臣・フリードリヒ=アレス、参謀総長・ヘルムート=ヴィーリッヒは奸臣佞臣を抱き込んで謀反を起こそうとしていた!! よってこれを処刑した。ヘルムート=ヴィーリッヒは私の幼少時の教育係だった故、刑を執行するにあたって躊躇いがあった・・・・・・・・・しかしこれも国のためと思えばこそと割り切り執行した!! これで国を害する虫はすべて一掃したも同然である。これより私は本格的な新政に乗り出す。まず新政の第一段階として戦争状態となっている国との講和をしようと思う!!」
女帝・イリアス=ブランデンブルクは広間で自ら政治を主導すると宣言した。即位してから3年間は参謀総長や内務大臣に政治を任せ彼女自身は男や酒などの享楽に耽っていた。3年鳴かず飛ばず・・・・・・・これが彼女の初期の政治スタイルだった。無能な振りをしながら自分にすり寄ってくる人間が有能か無能か、忠臣か奸臣かを見極めいていたのだ。そして最終的にフリードリヒ=アレスとヘルムート=ヴィーリッヒが国の癌だと認識し処断したのだ。
「陛下、現段階で帝国軍は押されていて講和を結ぶにしても有利な条件での講和は難しいかと・・・・・・・・」
「不利な条件だったとしても戦争を終わらせることができるならそれでいいと私は思ってる。外務大臣、連合王国との交渉はどうなってるか?」
イリアスは外務大臣にそう言った。なぜ連合王国と交渉をしているのかというと北フランス、西フランスの背後にいるのが連合王国で連合王国が戦争終結の命令を出せば北フランスも西フランスも停戦しなければならなかった。北フランヌや西フランヌとダラダラ交渉するよりも連合王国と交渉したほうが早期終結できるとイリアスは考えていたからであった。
「連合王国から提案された講和条件は以下の書面の通りです」
「・・・・・・・・・・」
「むむむ」
広間にいる家臣らに2枚綴りの書類が渡された。講和条件を見たイリアスや家臣らは苦々しい表情をした。
・エルザス、ロートリンゲンを北フランス共和国に返還。
・南フランス共和国の否認。
・南フランヌ共和国の領土をを北フランスに譲渡。
・ドイツ帝国の植民地放棄。
・賠償金5兆5000億を協商連合国陣営に支払う。
・中央同盟国陣営の解体。
これがイギリス連合王国が帝国に提案した講和条件だった。
「こんな条件を呑むくらいなら自滅したほうがマシだ!!」
「連合王国は我らを自滅にもっていこうとしてる!!」
「陛下、どうか命令を!! 連合王国に攻め込むべきです。刺し違えてでも滅ぼしてみせます!!」
「静まれ!! 帝国を滅亡させればそれこそ亡き祖父や父上、宰相に合わせる顔が無くなるではないか!!」
家臣らの言葉にイリアスが一喝した。
「陛下は講和条件を呑むつもりですか?」
「レイシア少将か・・・・・・・・・」
「陛下、少し別室で話しましょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・そ、そうだな。皆の者、今日の会議は終わりだ! 講和条件はまた次の機会に考えるとする」
こうして会議は終わりとなった。家臣らの冷静さを欠いた話し合いなど悪い方向にしか進まないため強制的に終わらしたのだった・・・・・・・・・・・
ーーーーブランデンブルク邸
「レイシア、私はどうするべきか?」
「陛下はどうしたいんですか?」
「もちろん戦争終結のために講和条件を呑みたい。あと・・・・・・・レイシア、私と2人きりの時は普通にしてくれ」
ブランデンブルク邸の一室でレイシアとイリアスはソファーに座って会話していた。
「そうだな。学友なのに敬語ってのは可笑しいもんな」
「ああ」
「それで単刀直入に聞くが、何で君はこの戦争を始めたんだ? 政府の高官はもちろん、私たち軍事関係者でさえ知らないんだが」
「アハハ、たしかに私はお前はもちろん、誰にも話してなかったな・・・・・・・・・・その結果、帝国全土から無能っていうレッテルが貼られてしまったな~」
「はぁ・・・・・・・まったく君は学生時代から180度変わったな。能天気というか、事なかれ主義になったというか・・・・・・」
レイシアとイリアスは同級生でイリアスは教室の端の席で近寄りがたいオーラを放っていた少女だった。対してレイシアは教室内の女子グループの上位カーストという立ち位置で2人は正反対だった。レイシアの父は貴族の出身だが常識に囚われない自由奔放すぎる人物だったためレイシア自身も自由奔放だった。それに対してイリアスほ皇族の直系で厳しく躾けられてきた。
「フッ、お前が私の本来の性格を引き出してくれたんだ。戦争を始めた理由は正義のためだな。ポーランド、南フランスから絶えず参戦依頼を受けていてな」
「参戦依頼?」
「ポーランドも南フランスも隣国の横暴さには頭にきていたと聞いていてな。いつか滅ぼしてやると思っていたと聞いている。でも弱小国が大国に刃向かうのは自殺行為に等しい・・・・・・・だから私らの帝国に援軍を求めにきたというわけ」
「隣国っていうと・・・・・・・・・・ロシア=ソビエトと北フランスや西フランスのことか?」
レイシアがそう言うとイリアスは頷いた。
「助けを求めてきた連中の話によればロシア=ソビエトはポーランドに、北フランスや西フランスは南フランスに侵入して手当たり次第に略奪、放火、強姦を繰り返しているらしくてな。その野蛮さはまるで物語に出てくるオークやゴブリンのようだと言ってたぞ」
「・・・・・・・・・・・」
「まあ極東にはオークのような頑丈な筋肉にゴブリンのような狡猾さと素早さ、エルフの弓のような命中率の高い技量を持った兵士がいるヤバい国があると聞く。それよりかはロシア=ソビエトやフランスの連中はマシと言うべきか・・・・・・・・・」
「マシも何もないだろ? 野蛮な奴らには変わりないわけだ。まあそんな経緯があって君は無謀すぎる正義の戦争を始めたわけか」
「・・・・・・・・・ああこれで助けを求めてきた連中の義理は果たした。義理を果たした以上、帝国が滅びるまで戦争をやる気は毛頭ないしな」
「なるほど」
「この戦争が終わったら次の戦争の準備をしなくてはな」
イリアスはそう言うと自らの手をレイシアの肩に置いた。
「戦争の準備? 君はまた戦争をふっかけるつもりなのか?」
「仕掛けられたら戦争、こちらから仕掛けたら戦争・・・・・・・戦争に終わりなどないからな。オスマン帝国を狙う輩が出てきたんだ。それに向けて戦争準備をしなければならないのだよ」
「オスマン帝国を狙う輩・・・・・・・・・ロシア=ソビエトか」
「いや違う。ロシア=ソビエトの南下政策よりもたちの悪い目的を持った輩がいてな・・・・・・・・欧州本部という大日本帝国から派遣された駐在武官がつくった機関があってね。その機関がイタリア王国のマルタ島を拠点に勢力拡大を目指しているというらしい」
「君がそんなに詳しいとは・・・・・・・・事前にスパイでも入り込ませておいたのか?」
「残念ながらスパイを入り込ませる事ができるほど奴らに隙は無い。実はお前の愛弟子が欧州本部と裏で交流しているみたいで、わざわざ報告書を此方にあげてくれているのだよ」
「愛弟子ってあのユズキが?」
「これだよ。これにすべて書いてある」
イリアスはそう言うとテーブルに置かれた書類をレイシアに渡した。
「・・・・・・・・・・・海軍陸戦隊十個師団《20万》と艦船100隻を擁して世界平和を大義名分とし、オスマン帝国を滅ぼし勢力拡大を目論んでいる・・・・・・今のドイツ帝国だけでは太刀打ちできないではないか。しかもマルタ島って、オスマン帝国からドイツやフランス、イギリスへの地中海輸送航路が危うくなる」
「想像以上にデカい勢力だと分かるだろ? 私たちは連合王国や共和国と争うのではなく連合して奴らにあたるべきだと思っていてね。講和条件を呑むと言ったのもそんな背景があったからだ・・・・・・・・・・ユズキからの報告が無かったら私は未だに戦争継続の命令を出していただろうな」
「・・・・・・・・・・・・あの馬鹿弟子はなんて危ない真似をしてくれたんだか」
「いやユズキの身は安全だと思うから安心していいと思う」
「?」
イリアスの言葉にレイシアは首を傾げた。
「歓迎されてるんだよ。欧州本部の幹部らに・・・・・・・・・心配なのはユズキが欧州本部に情が移らないかだな」
「・・・・・・・・・情が移らないように今のうちに繋ぎ止めないといけないのか」
「まあそうだな。それにしても随分とユズキに御執心だな。こないだもデートしていたようだし。彼に惚れてるのか?」
「まったく変な推測をするな君は・・・・・・・・・私とユズキの師匠と弟子の関係に過ぎない。それ以上でもないしそれ以下でもないよ」
「そうかなら安心した。レイシア、合間を縫って彼を私の館まで連れてきてくれないか? 召喚してから一度も顔を見たことがないからな」
イリアスがそう言うとレイシアはニコッと笑った。