第26話 バルカン半島を緩衝地帯に
機巧暦2139年11月・イタリア王国マルタ島
「まずバルカン半島を北のルーマニア、セルビア、モンテネグロと南のブルガリア、ギリシャに南北寸断して南に欧州本部の支部をつくる。推測でしかないがバルカン半島はオスマン帝国の支配をよく思っていないはず・・・・・・・・・独立の機会をうかがっている可能性があるので」
「ふぅ~ん。それで根拠はあるのか?」
「ロシア=ソビエトの手を借りようとしているらしく度々ルーマニアやブルガリアは使者を送っています。ロシア=ソビエトもバルカン半島の独立に手を貸せば恩を売ることになり先々の利益になると積極的になっています」
マルタ島の鎮守府大会議室にて作戦会議が開かれていた。出席者は大覚寺尊治元帥、日野安俊大将、新田義明中将、楠木幸政中将、北畠顕康少将、榊原康介少将の大日本帝国・欧州本部の幹部らである。
「榊原少将、バルカン半島は北と南で意見が対立していると私は聞いています。ルーマニア、セルビア、モンテネグロはロシア=ソビエトの手を借りて独立したいらしいですし、南のブルガリア、ギリシャは近代化してロシア=ソビエトの手を借りずに独立したいという独立派と、今まで通り宗主国のオスマン帝国に頼るという保守派で分裂していると聞いています。そこのところはどうお考えで?」
「ブルガリア、ギリシャの独立派を資金援助し近代化を促します。この地域を大日本帝国・欧州本部の緩衝地帯として考えていますのでブルガリア、ギリシャには自国を守れるだけの財政、政治、軍事が整うまで保護国とします」
支那国から来ていた劉季陸軍元帥がそう言った。趙国からは劉季陸軍元帥のほかに劉徹陸軍大将、劉且陸軍中将、劉宋陸軍少将が出席していた。彼らは清王朝の地方軍閥で大日本帝国が攻めてきた時に迎え撃とうとするも敗北。祖国のために戦ったにもかかわらず民衆と革命勢力の国民党に押されて国を追放され路頭に迷う羽目になった。その後、奇跡的に欧州本部に拾われ将校としてスカウトされ今に至る。
「榊原少将、我らの目的はあくまでバルカン半島からオスマン帝国に攻め込み滅ぼすこと。バルカン半島を助けるなど言語道断」
「劉季元帥が言われることはごもっともです。でも俺らの目的はオスマン帝国を滅ぼすことではありません。《救済》が目的です。滅ぼすのは民を救うための最悪の一手に過ぎません・・・・・・・・・・そこをお忘れなく」
「さすが榊原少将、我らの目的をわかっている。劉季元帥、我らは民を救うために立ち上がったのだよ。民を苦しめる戦争をこの世から無くすために・・・・・・・・・戦争をなるべく回避するのが我らの手段だ」
出入り口付近の壁にもたれかかっていた新田がそう言った。
「バルカン半島を保護国にして何の得が?」
「先程も述べた通りロシア=ソビエトと大日本帝国・欧州本部の間に緩衝地帯をつくるためです。ロシア=ソビエトは不凍港を得ることを目的です。南に位置するオスマン帝国の領土は喉から手が出るほど欲しい土地なはずです。俺ら欧州本部がオスマン帝国を攻めている間にロシア=ソビエトに出てこられては困るのです」
「バルカン半島はロシア=ソビエトの南下を防ぐための壁ということか」
「はい。いずれはオスマン帝国はもちろん、ロシア=ソビエトとも戦うハメになりますから、それまで俺らはそれなりの準備はしなくてはなりません」
「うむ。榊原少将、下がって良いぞ」
「はい」
大覚寺がそう言うと康介は一礼すると席に戻った。