第25話 上陸論争
機巧暦2139年11月・イタリア王国マルタ島
「幸政中将、今回の作戦だが短期間でオスマン帝国を攻略しないとロシア=ソビエトが邪魔をしてくる可能性がある。短期間で攻略できるか?」
「あのバカでかい領土を短期間で攻略なんか不可能だ!! 現実を見ろ顕康少将」
「まままあ幸政も顕康も落ち着け」
イタリア王国のマルタ島・欧州本部海軍鎮守府で海軍中将・楠木幸政と海軍少将・北畠顕康が作戦をめぐって口論をしていた。
「尊治、アンタはどうなんだよ?」
「幸政・・・・・・・私は元帥だぞ。少しは敬語を使え。 まあとにかくオスマン侵攻のための上陸地点だけは決めておかねばな」
海軍元帥・大覚寺尊治はため息をついた。
「地図を見る限りマルタ島から一番近い場所でタギア半島だな」
「いやバルカン半島からだと北のロシア=ソビエトどう動くかわからない・・・・・・・元帥、ここは地中海から直接オスマンに上陸するのが最善策です」
壁に貼られた地図を指でなぞりながら顕康はそう言った。
「・・・・・・地中海経由だと補給線が伸びるぞ。陸路はもちろんだが海路の補給も危うくなる」
「それなら地中海とバルカン半島の二つの地点から上陸して首都に侵攻したらどうか?」
「軍の規模を考えると二つの拠点をつくって作戦を行う余裕など無いから無理だ」
二人の案は尊治によって却下された。
ガチャ!!
「ただいま戻りました」
「おお、榊原少将! いいところに来てくれた」
「?」
康介がドアを開けると新田が駆け寄ってきた。部屋の奥には大覚寺元帥が机で頭を抱えていて、その左右に楠木中将と北畠少将が言い争っていた。
「榊原少将、前に君に話していたオスマン侵攻について君の意見が欲しくってね。あの二人に任せていてはいつまでも作戦計画が進まないのだよ」
「はぁ~新田中将、俺は新参者です。まだこの組織に入ってから日が浅い・・・・・・・・口を出すのはもう少し馴れてからにします」
「ではこれだけ答えてくれ、地中海から上陸すればいいか、それともバルカン半島から上陸すればいいのか」
「・・・・・・・・・・常識で考えればバルカン半島がこのマルタ島から近いですから、バルカン半島から上陸するのが上策かと・・・・・・・・・」
「わかった。それでいこう!! それぞれの軍の配置や艦隊の配置は私が決めよう。其方らは下がれ」
「わ、わかりました」
「はぁ」
「・・・・・・・・・」
康介が新田にそう言うと机に座っていた大覚寺がそういった。
「・・・・・・・・・・」
「どうした? 榊原少将 下がっていいぞ」
「元帥、一つ聞きたいことありまして・・・・・・・・・」
「どうした?」
「俺はこの組織に入ってまだ半年しか経っていません。半年しかいない奴に何がわかるんだって思われるかもしれませんが・・・・・・・・・単刀直入に言うとこの組織の人間関係がちぐはぐっていうか、嚙み合っていないというか・・・・・・・・・・その状態でうまく連携をとって戦うことができるのかなと思いまして・・・・・・・・・」
「アハハ、たしかに楠木中将と北畠少将の仲は良いとは言えないな。でも個々の戦術は優れている。楠木中将はゲリラ戦術、北畠少将は強行軍によって敵軍を奇襲、新田中将は全軍の指揮とそれぞれ役割が決まっているのだ。3人が共闘しなければ大体の戦争には勝てるのだよ」
「・・・・・・・・・・新田中将の全軍の指揮っていうのは?」
「新田は名門の出でカリスマ性があるし兵たちの士気の上げ方も心得ている。カリスマ性っていうの誰しもが持っているものではないからな。立派な能力だよ」
大覚寺は茶をすすりながらそう言った。
「楠木中将と北畠少将ってなんで仲が悪いんですか? 俺が見る限りいつも言い争いしてますが」
「あれはお互いがライバル意識があるからやっていることで仲が悪いってことではない。まあ双方の身分の違いにより考え方の違いってこともあるだろうがな」
「身分が違う・・・・・・・・?」
「楠木は奥多摩の山岳地帯を拠点にしていた盗賊の首領で、北畠は朝廷側の期待の若き大将軍なのだ。楠木に関しては鎮圧に向かった新田が直接説得して味方に引き入れたと聞いている」
「盗賊は反社会勢力・・・・・・・それを味方に?」
康介は少し驚きながらそう言った。
「才能さえあれば人格や身分など問わず登用するのが新田のやり方だ。楠木は普段では粗暴で礼儀知らずで戦になれば残虐非道が目立つ。戦での実力は幕府が差し向けた20万の軍勢をわずか1万の軍勢を籠城戦で退けたと聞いている」
「それじゃ、北畠少将はどういった人物で?」
「北畠は・・・・・・・・・何を考えているかわからない不気味な人物だ。表向きは温和なんだが裏ではかなり酷薄だ。まああの若さで大将軍なんだからかなりの場数と修羅場をくぐり抜けてきたからと聞けば納得かもしれぬな。最近は仲間のためにという感情が芽生えてきてね。最初の頃よりは人間らしくなってきた」
「・・・・・・・・・・人間らしく?」
「まあ後は本人たちに聞くとよい。親睦を深めるためにもな」
「は、はい」
そう言うと大覚寺は椅子から立つと部屋を出ていった。




