第22話 大日本帝国
機巧暦2139年11月・ドイツ帝国帝都ベルリン
「私は元々、日本には必要の無い人材でね。だから駐在武官としてドイツに左遷されたのだ。まあ新政府に忠誠なんか無いがな・・・・・・・・・・」
「新政府?」
「フッ、1つ土産話に聞いていくか? 私の今まで辿ってきた道を?」
「・・・・・・・・・・はい」
「盃が空いているぞ? 注いでやるから寄こせ」
新田はそう言うと俺の盃に急須で酒を注いだ。俺もお返しに新田の盃に酒を注いだ。新田は少し酔っているらしく口調が砕け始めている。
「私は江戸幕府の幕臣でね。開府以来250年余り続いた幕府は腐敗していてとても外国に対抗出来るような体制では無かった。」
「・・・・・・・・・・・」
「各地を藩にわけて功臣を藩主として統治させたのが間違いだったのだ。最初こそは幕府に従っていた藩主はいつの間にか独立していたのだ。さらに尊王攘夷派の連中によって内部から突き崩される始末だった・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・なるほど藩主に権力を与えすぎたということが幕府の崩壊に繋がったと?」
「よくわかったな。そうだ私は各地で攘夷派による反乱が起きた時に対象できるように将軍に軍事、政務、財務、司法のすべての権限をを朝廷に返し幕府は再び朝廷の元で新たな政治を始めるべきと進言したのた・・・・・・・・・・・ここまでは万事抜かりなかったはずだったのだ」
「?」
「結果は失敗し朝廷に実権は返すところまでは成功したが、朝廷の元で将軍と藩主を中心とした新政権をつくる試みは薩長土肥の倒幕派の妨害により見事に潰えた」
新田は自虐的な笑みを浮かべた。
「・・・・・・・・・・その後、どうなったんですか?」
「倒幕派の強引なやり方に激怒した佐幕派が挙兵して内乱になった。倒幕派はイギリスから支援を受けていたらしくて最新の兵器が多かった。佐幕派はフランスの支援を受けてはいたが兵器は古いモノしか寄こさなかった。まとまりが無い佐幕派が負けると踏んだからだろう」
「内乱が起きている間、貴方は何をしていたんですか?」
「・・・・・・・・どうすることも出来なかっな。ただ内乱の行く末を見守ることしか出来なかった」
その後、内乱は倒幕派に平定され佐幕派は処罰されたが、一部の佐幕派は朝廷で重用されたという。新田も重用された1人だったという。
「だがな万事上手く朝廷の元で纏まった訳じゃないんだ。朝廷も薩長土肥の連中を飼い慣らすのに苦労していたのだよ。薩長土肥の倒幕派は殆どが下級階層の武士で構成されていた。礼も義も知らぬ奴らのやり方は汚く放火、略奪、陵辱はお手の物だったな」
新田はそう言うと盃に入った酒を一気飲みした。
「私の正妻や愛妾も娘も薩摩の連中に凌辱されたあと磔にされて串刺しにされたのだ。いくら佐幕派を弱らせる為とは言えどもテロリストと同等だ」
「復讐するためにいつか滅ぼしてやろうと思った・・・・・・・・・ということですか」
新田は静かに頷いた。
「貴方のお考えは至極真っ当です。愛すべき妻や娘、民草を虐殺されて復讐しようとするのは当たり前のことです。でも復讐は次なる復讐を生み出します」
「そのようなことはわかっている。だから私は復讐ではなく私のような悲惨な末路を辿る者がこの先に現れないような世界をつくることが私の使命であり、虐殺された者たちへの慰めというか救いになればと思っていてね。君はどう思うかね?」
「・・・・・・・・率直に言えばわからないというのが俺の答えです」
「フッ 確かにそれが正しい答えかもしれないね。まあ身の上話はこれぐらいにしよう」
「貴方はこれからどうするおつもりで?」
「大日本帝国と対抗するために《大日本帝国・欧州本部》をつくるつもりだ」
「最終的には東と西で全面戦争をする・・・・・・・ということですか?」
俺がそう言うと悲しげな表情で新田は頷いた。
「私としては戦争は避けたいが大日本帝国がそれを許さないだろう・・・・・・・・・・私には海軍の艦船200隻と十個師団《20万》の陸戦隊がいるから負けることはないが・・・・・・・・・・・もしものことがあるからな」
「・・・・・・・・・・!?」
「何をそのような驚いた顔をしているのだ? 私はそれだけのことが出来る男だ。まあ陸戦隊は各地から集めた多国籍軍だから統制がとれるかはわからないな」
「・・・・・・・・・」
こうして話しているうちにいつの間にか夜が更けていた。