第35話 帝政廃止の前日
ーーーードイツ帝国フランクフルト
「各地でくだらん革命騒ぎが起きていて鎮圧に忙しいっていうのに呼び出しとは・・・・・・・・・何事かね?」
ハンブルク王のアルフレート=フォン=レイシアはフランクフルトのアーチゾルテ=レーゲルから緊急の呼び出し受けてフランクフルト宮殿の執務室に来ていた。レイシアは来たくもないフランクフルトから呼び出され余程イライラしているらしく軍服の上着や軍帽を無造作に脱ぎ捨てネクタイを外し第2ボタンまで外してだらしなくソファーに座っていた。
「レイシア少将、執務室でのタバコは控えよ」
「いいではないか。ただでさえイヤな場所に呼び出されているのだ。気を紛らす為のタバコくらい大目に見てくれないか。あと私は軍を引退している身だから階級で呼ぶのは止めてくれたまえ」
「まったく君という人は・・・・・・・・・どこまで自由なんだか」
レイシアの正面にスーツ姿で座っているレーゲルはため息をつく。
「そろそろ本題を聞かせてもらってもいいかね?」
「先ずは礼を言わせてくれ。貴殿のノイブランデンブルクの占領が無ければ治安部隊や他の軍はカーチスを追撃が出来なかった。貴殿が南北戦争勝利の立役者だ」
「フフッあれは私の功績ではなくヴィルヘルム=ハノーファーの功績だ。礼を言うならヴィルヘルムに言うといい」
「隠居していたハノーファー将軍を引っ張り出すとは・・・・・・・あぁそれより本題だったな」
レーゲルがまたうだうだと話を引き流そうとしていると感じたレイシアは切れ長の瞳でレーゲルを睨む。眼光の鋭さにレーゲルは一瞬怯み目線を逸らす。
「・・・・・・・帝国を解体しようと考えていてね。もう誰が政務をやろうが事態は好転するどころか悪化していくばかりだから、いっそのこと帝政を廃止して新たな政権下で政務をやるのが望ましいと考えてる」
「・・・・・・・・・・」
「既に手は回してある。ミュンヘンで結成されたと聞く共産党や自由党に対抗するべく我々でも党員を募っていて多数の人が集まってくれた。近衛軍も介入済みで近衛にいる連中は政治能力が高い奴が多い。新政権になっても活躍してくれるだろう。貴殿にも新政権に参加してもらいたいのだが」
「仮に新政権樹立に成功したとして共産党や自由党はどうするつもりかね? 共産党は共産主義を信奉しているわけで今君らが弾圧している連中であろう? 同じ釜の飯を食べるという訳にはいかないだろう?」
「一部の過激派以外は介入はしようとは考えている。だが政権はあくまで我々が握る方向でいこうかと考えている」
レーゲルは口では介入だと言っているがその表情は心底嫌そうだ。
「そう上手く介入出来るかねぇ~」
「やってみなければ分からないだろ。先ずは帝政廃止宣言をして様子を見るしかあるまい」
「アイネス帝から退位を宣言してもらわなければならないな」
レイシアがそう呟くとレーゲルは首を横に振る。
「この革命騒ぎの中で退位宣言したとしても混乱は治まるどころか悪化していくから、ここは近衛軍にクーデターを起こしてもらう」
「クーデター?」
キョトンとするレイシアにレーゲルは笑みを浮かべる。




