第31話 ウィーン会議
機巧暦2140年7月・オーストリア=ハンガリー帝国・ウィーン宮殿
オーストリア=ハンガリーの統一を成し遂げ無事ハプスブルク家を継いだヨーゼフは帝都をウィーンに置き西のドイツ、イタリア、フランスに睨みをきかせていた。
「今のドイツ皇帝って誰だったかな?」
「アルフレート=フォン=アイネスと聞いていますが実権はなくアーチゾルテ家の傀儡と聞いています・・・・・・・それがどうかなさいました?」
「アルフレート=フォン=ユズキをドイツ皇帝にする事が出来ればハプスブルク帝国の再興も何かとやりやすくなるのではないかなと思ってな」
ヨーゼフは執務室の椅子ではなく机に腰掛けていた。高貴な出と言えども宮殿を追い出されてからの庶民生活や軍隊生活が長かったヨーゼフは高貴で豪華な生活に馴れず皇帝になってからも街で遊んだり居酒屋で酒を飲んだりと宮殿を殆ど空けている状況だった。この日はたまたま執務室に居たのではなくブダペスト王のアルフレート=フォン=ユズキが急遽ウィーンに来るという事でイヤイヤながら宮殿にいたのだ。
「当の本人はそのような気は無さそうですが。アルフレート少将は義や仁を大切しておられる故、自らの祖国やアルフレート家に銃口を向ける事はないと思いますよ」
「それもそうだよな・・・・・・・」
人の優しさや義理といったモノがゴミ扱いされるこの世界で義理やら仁の精神を貫こうとするユズキをヨーゼフは関心していた。
その後ーーーー
「これはアルフレート少将、お待ちしておりました」
「遅れて申し訳ない。ウィーンの街が美しくてつい見惚れていたらこのような時刻になってしまった。さぁ協議を始めましょう」
アルフレート=フォン=ユズキがウィーンの宮殿に到着したのは予定時間から30分過ぎた頃だった。ユズキは王侯の身分にも関わらず護衛を連れず1人でウィーンへ来ていた。黒い軍服の上からグレーのトレンチコートを着ていた。左右の腰には金具で華麗に装飾された剣を差し胸元には勲章やら王侯を示すバッチを付けている。ヨーゼフは執務室にユズキを招き入れると席に座らせ自らもユズキの前に腰掛ける。
「親ソビエト派のアルベルト=カーチスはポーランド国境で自殺し、親フランス派そして反共主義のアーチゾルテ=レーゲルがドイツ北部を統したからね。まあドイツ内戦は一先ずは落ち着きそうですね」
「君の目からはそう見えているのか。私の目からは次の騒乱の幕開けだと睨んでいるんだがな」
ユズキの言葉にヨーゼフが否定する。
「何故だ? ドイツ内戦の原因はアルベルト家がアーチゾルテ家の政治に不満が溜まって爆発したものだ。元凶のアルベルト家やその諸侯らが粛清された今新たな騒乱が起こる可能性は無いはずだが」
「アルフレート少将はドイツ帝国政府が全権委任法が制定されたのをご存知ないと?」
「いや長らくハンガリーにいたからな。ドイツ国内の事は疎くて・・・・・・・・その全権委任法とやらは何なのだ?」
ユズキは出された紅茶を啜りながらそうヨーゼフに聞く。美少女と見間違える程の美貌を持つ銀髪緑眼の好青年が憂鬱げな表情を浮かべる姿は余りにも蠱惑だ。ヨーゼフは変な気を起こさぬようユズキから目線を逸らす。
「・・・・・・・っ。 アーチゾルテ=レーゲルは北伐出発の際に自分が留守の間に皇帝やその臣下らに好き勝手にはさせては安心出来ないという事で軍事、司法、行政などの決定権を全権委任法を制定することによって皇帝から奪ったのです。そして今アルベルト=カーチスを倒し北伐を成功させた彼の権力は皇帝を凌ぐ勢いなんです。聡明なアルフレート少将なら此処まで話せば先々に起こる事は理解出来るはずです」
「帝位の簒奪か・・・・・・・・・それならオーストリア=ハンガリーの国家戦略案を予定より早く確定しなければならないな」
「国家戦略案?」
ヨーゼフは首を傾げる。