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機巧魔術師の異聞奇譚  作者: 桜木紫苑
第五章 内戦と統一
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第28話 自殺

機巧暦2140年6月・ドイツ帝国・ヒンターゼー



ノイブランデンブルクがハンブルク予備軍によって占拠された頃、アルベルト=カーチスは数十人の護衛と共にドイツとポーランドの国境にあるヒンターゼーという地域に来ていた。ヒンターゼーはベルリンやノイブランデンブルクのような都会ではなく畑や山林が広がる田舎だ。カーチスらは山林に入るとただひたすら東へ歩く。





(この山林を越えさえれば西ポーランドに辿り着ける。ポーランドにさえ入ってしまえば連中は手を出せないはず・・・・・・・・)





ただ、ただひたすら東へ・・・・・・・・・ポーランドへ




身分も地位も捨てて自由になる為





「カーチス様!! あれを!!」



「な、なんだ?」





食うや食わずで山を登り続けフラフラになりながら歩くカーチスに前を進んでいた護衛兵が叫ぶ。護衛兵が指差す先には山林の出口がある。月明かりに照らされ幻想的な様相を生み出している。



「で、出口だ~!! あそこまで走るぞ!!」




「「はい!!」」



カーチスは嬉々として出口に向かって走り出す。





しかし現実は非常だーーーーーー







「お久しぶりです。アルベルト=カーチス帝国陸軍大将」







「!?」



「だ、誰だ!?」



出口付近の木陰から黒い影が現れる。カーチスは立ち止まり護衛兵も歩みを止める。酷く冷たい声音を吐く木陰の主は木にもたれ掛かりカーチスらを見つめる。不気味に感じた護衛兵が警戒し剣を鞘から引き抜き木陰の主に切っ先を向ける。



「私の名をご存知ない・・・・・と?」



「知らないな」



カサッ カサッ カサッ



月明かりに照らされた主はようやくカーチスらの目の前に来る。黒い軍帽に軍服、手には白い手袋をはめ胸元には髑髏に鷲がとまっている不気味なマークが描かれたバッチをつけている。ラインハルトは軍帽を少し上にあげカーチスを品定めするかのように見つめる。



「私はハインリッヒ=フォン=ラインハルトと申します。以後お見知りおきを・・・・・・・・・と申しましたが貴方は此処でお終いなのでお見知りおきも何もないですね」



「・・・・・・・・・貴官は元々海軍士官だったはずだが? なぜ・・・・・・・・・陸上勤務をしているのだ?」



「不名誉除隊してから彷徨っていたところをレーゲル宰相に見初められて今の仕事に就いたんですよ」



ラインハルトにとって不名誉除隊の件は黒歴史のようで張り付いた笑みを浮かべながらそう言う。彼は生まれつき顔が良く女性からかなりモテた。学生時代にダンスホールで出会った女学生と結婚していたが、ある時バーで知り合った女性に一目惚れし交際を始めた。しかしその女性がラインハルトの上官の娘と言う事と妻がいながら不倫したという事で後日、上官から呼び出しをくらい不名誉除隊の処分を受けた。



「そうか。それで貴官はこの俺を殺しに来たのか?」



「はい。罪状は共産主義者(アカ)と共謀し帝国を我が物にしようとした国家反逆罪です。この通り帝国宰相アーチゾルテ=レーゲルの署名もありますので」



ラインハルトは懐から書類を取り出しカーチスに見せる。



「1つだけ良い訳するなら共産主義者と共謀した覚えはないぞ。俺はただリリィとかいう小娘に利用されただけだ。共産主義者は関係ないはずだが」



「捕らえた貴方の仲間を尋問したところ吐きましたよ。アルベルト=カーチスはソビエト政府から武器弾薬を支援してもらうように要請を出していたと。さらに勝利の暁にはドイツを二分し東をソビエト政府、西を貴方が統治する独ソ密約を締結していたみたいじゃないですか」



カーチスは見る見るうちに青ざめていく。事実、カーチスはソビエトをロシアにおける正当にして唯一無二の政権として認める代わりに武器弾薬の支援を要請。ソビエト政府はこの要請に大喜びし直ぐさまレンドリース法を制定すると莫大な量の武器弾薬や資金を西ポーランドやノイブランデンブルクに流した。カーチスら諸侯軍が圧倒的な軍事力を維持できたのはソビエト政府のお陰だったのだ。



「・・・・・・・・崩壊しかかった帝国を纏めるにはデカい力が必要だったんだ。やむを得ず決断したんだ。共産主義者は嫌いだが帝国が滅びては元も子もないからな」



「国際認可されていないソビエトと手を結ぶとは悪手でし課ありませんね。仮に帝国を統一出来たとしてもロシア政府を正当政府だと唱えているイギリス、フランス、イタリアあたりは抗議するでしょう・・・・・・・・・」



「ふっ、そうだな」



ラインハルトは腰から拳銃を引き抜き持ち替えるとグリップの方をカーチスに向けて差し出す。



「自殺しろってか」



「はい。ああ後、帝国宰相から此方を貴方に渡すよう言われました」



思い出したように軍服の胸ポケットから紙タバコとライターを取り出すとカーチスに渡す。カーチスはタバコを1本引き抜き口に咥える。無意識にライターで火をつけ吸い始める。



「ふっ~・・・・・・うっ・・・・・ゲホッゲホッ!! なんだこりゃマズいぞ。このタバコ!! つーか何てもん寄こしたんだレーゲルの野郎は!!」



盛大に咳き込むカーチス。



「帝国宰相からは・・・・・・・・」



「いや言わなくてもいい」



ラインハルトが何か言おうとするもカーチスは止める。



「?」



「このタバコは士官学校で懐が寒かった俺にレーゲルが奢ってくれた安物のタバコなんだ。友人への最後の贈り物ってやつなんだろうな・・・・・・・まったくレーゲルの奴め」



カーチスは笑いながらそう言う。



「・・・・・・・・・・・」



「最後にレーゲルにこう伝えてくれ。国を護る為とは言えども悪魔にはなるなと。常に民の事を第一に考え他国がぶら下げる利権に釣られるなと」



「分かりました」



カーチスはそう言うとラインハルトから背を向ける。渡された拳銃を自らのこめかみに当てると引き金をひいた・・・・・・・・

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