第21話 救済された世界
機巧暦2139年11月・ドイツ帝国帝都ベルリン
「君が噂の久遠少将かね?」
「ああ、そうだが・・・・・・・」
ブレーメンの鉄道から帝都に戻った俺はベルリン駅の改札口で一人の初老の男性と鉢合わせていた。初老の男性は紺色の浴衣を着ていた。スーツ姿やコート姿の人々が多いため浴衣に身を包んだ中年男性だけ浮いて見えた。
「お初にお目にかかる。新田義明と申します」
「これは・・・・・・・・・」
「こんな場所で立ち話もなんですからここは私の屋敷でどうですか?」
「わ、わかりました。お言葉に甘えて」
新田邸ーーーー
「さぁ、遠慮なくお座り下さい」
「ありがとうございます」
俺はベルリン駅から新田義明の屋敷に来ていた。大きな日本風の屋敷で俺が通されたのは6畳の畳敷きの部屋だった。床の間には値が高そうな壺が置かれている。
「さて、私が手配した支援金は使っているかね?」
「遠慮なく使わせて頂いてます。でもなぜ俺にあのような高額な資金を? あの資金があれば貴方は今以上の活躍が出来たはずです」
「アハハ、金は天下のまわりものと言うように金なんてすぐに手に入りますよ。汚い手を使えばいくらでもね」
話している間に4っの膳が運ばれてきた。俺に2っ、新田に2っの膳が置かれた。
「まあ酒でも飲みながら話そう」
「はい」
「さぁまずは一献」
「ありがとうございます」
一膳目の方には盃と酒の入った急須と塩、味噌の入った小皿が、二膳目にはホウレン草の和え物、鯛の塩焼き、アサリの酒蒸し、鹿肉の味噌焼きが盛られている。
「莫大な資金を提供したのは君を私の元に繋ぎ止めておきたいのだ」
「・・・・・・・・俺は貴方の味方ではありません。味方ではないのに繋ぎ止めておきたいとはどういうことで?」
「私には夢というか、まあ願望というのがあってね。この先の見えない戦争に終止符をうち、いずれは私自身が民のための救済された世界をつくろうと思っていてね。その救済された世界をつくるには同志、まあ仲間が必要なわけだ」
「・・・・・・・・・・それで俺を仲間にしたいと?」
「そうだ。君はレイシアから正義の味方になるんだったら悪者になれ・・・・・・・・と言われてるそうだね?」
「まあ・・・・・・・そうですね・・・・・・ってなんでそれを知っていて?」
新田は空になった盃を膳にのせると急須で酒を注いだ。
「私はドイツ帝国の駐在武官である共にスパイの役目も果たしているのだよ。大日本帝国に少しでも益がある情報であればすぐに本国に通達しているからね。もちろん君の情報もね」
「それ俺に漏らしていいんですか? 参謀本部に報告しますよ?」
「アハハ、構わないさ。でも私はもう日本の者ではないからね」
「日本の者ではないとはどういうことですか?」
酒の酔いがまわってきた・・・・・・・・・