第25話 想定外の出来事
機巧暦2140年6月・ドイツ帝国・トロレンハンーゲン
「参謀長、軍勢の配置が終わりました」
「うむ。ありがとう」
「後は敵がノイブランデンブルクに入るのを待つだけだな」
迫り来るであろうフランクフルト軍やハンブルク軍を迎え撃つ為にアルベルト=カーチスの参謀長はノイブランデンブルクの周囲にある都市ヴルケンツィン、ブルクシュターガルト、トロレンハンーゲン、ブランケンホーフ、シェーンベックの5個都市に兵1万ずつを配置。ノイブランデンブルクにはあえて兵を置かず、もぬけの殻にする大胆な配置をとった。
「ノイブランデンブルクを奪われるのを前提で作戦をたてるとは何とも大胆な事で・・・・・・・・」
「確かこうゆうのを後手からの一撃って言うんだっけな」
本営をトロレンハンーゲンに置いた参謀長は眼下に見えるノイブランデンブルクの都市を見渡す。その表情は憂鬱で苦しげだった・・・・・・・・・・
「やはり先々の心配ですか?」
「うむ。カーチス様がああも無能になるとは思いもよらなかった。学生の頃は聡明だったのにな。アレでは彼を慕っていた将兵の心は離れる・・・・・・・ここでフランクフルト軍やハンブルク軍を撃ち破り仮に帝国を統一出来たとしてもカーチス様に執政を任せるわけにはと思ってな。ここはノイブランデンブルクを敵に占拠させカーチス様の退路を完全に断つのが良いのではと」
「ここで負ける事がアルベルト様にとって良い薬になると?」
「まあな。カーチス様が傷つかない最善の方法かなと思って・・・・・・・・いや今のは聞かなかった事にしてくれ。我らは使命を果たすのみだ」
参謀長は首を振り邪念を振り落とすと側近にそう言う。参謀長としてはアルベルト=カーチスの今の地位は彼の身の丈に合っていないと感じていてカーチス自身も王として立派にならなければという責務にかられていたのは事実だった。
その後ーーーーー
「将軍!! 緊急電報が入りました。ブランケンホーフにいる守備隊からローゼノー方面の街道に敵軍を発見との事!!」
「想定内だ。ブランケンホーフの守備隊は街中に身を隠し敵軍を素通りさせろと伝えろ」
「御意!!」
夕方になり1人の伝令兵が本営に駆け込み早口でそう言うが参謀長は冷静にそう言うと伝令兵を追い返す。
さらにーーーー
「報告!! ヴルケンツィンに敵軍が到達!! 我が守備隊は此を素通りさせました!!」
「よし!! 敵軍がノイブランデンブルクに到着次第、攻撃出来るよう準備せよと命じろ!!」
「御意」
伝令兵が帰っていくと参謀長は疲れたようにドカッと椅子に座る。
「これで何とか敵軍をノイブランデンブルク内に引きずり込めればいいが・・・・・・・・」
参謀長はコーヒーを飲みつつそう独り言を呟く。
「さ、参謀長ぉぉぉ!!! 参謀長は居ますか!?」
つかの間の静寂を破り側近が本営に駆け込んでくる。
「ど、どうしたのだ? そのように慌てて」
「シェーンベックにいた偵察部隊の報告なのですが敵軍がシェーンベックの東方にあるシュトラースブルクに進撃しているとの事です!!」
「シュトラースブルクだと!? ど、何処の軍だ!? フランクフルト軍か? そ、それともハンブルク軍か!?」
「分かりません。しかしシェーンベックにいる守備隊によればシュトラースブルクから黒煙が上がっていたと・・・・・・恐らく陥落したものと思われます」
「はぁ!?」
守備隊の言葉が本当であれば参謀長率いるノイブランデンブルク軍は敵に背後を取られたのだ。この時、参謀長が思っているより事態は悪化しておりシュトラースブルクはナーレス=エルヴィスが率いる機甲師団により占拠されており、さらに北部の一部諸侯がノイブランデンブルク軍を見限り参謀長率いるノイブランデンブルク軍の退路を完全に遮断していた。