第22話 電話
機巧暦2140年6月・ハンガリー・ブダペスト宮殿・執務室
参謀次長のフレアの言うとおりレイシア師匠から連絡が来たのはノイブランデンブルク軍軍敗走から1週間後の事だった・・・・・・・・
ジリジリッ ジリジリッ
ガチャ
「アフレート=フォン=ユズキだ。何かあったか?」
(久しぶりだな。バカ弟子)
書類に目を通していると突如、机の右端に置いてある黒電話が鳴る。報告は直接グレイスから聞くため電話がかかってくる事は一切ない。その為、驚きつつ俺は受話器を耳に当てると受話器から聞こえてきたのは師匠の声だった。
「し、師匠・・・・・・・どうしたんですか? いきなり電話など」
「祝いの言葉を言おうと思ってね。オーストリア=ハンガリー及びバルカン半島での戦勝おめでとう。弟子の君がようやく独り立ち出来たと思うと嬉しく思うよ。まあ1つ忠告しておくが・・・・・・・余り調子に乗るなよ」
アハハッ、戦勝祝いは口実でメインは俺への牽制か
「師匠こそノイブランデンブルク軍討伐の成功おめでとうございます。大勝だったようで」
(流石情報を掴むのは早いな。まあ指揮したのは私ではなく父祖以来の優秀な部下たちだがな。私には軍才はおろか何も才能がないからな)
軍才は無いけど謀略っていうか裏工作がエグいんだよな。 自覚あるのかな~。この人・・・・・・・
「で、そろそろ本題に入ってくれませんかね?」
(アハハッそうだな。では本題に入るとしよう。南北戦争の結果、アルベルト家の没落は確定したわけだが勢力は依然大きいままだ。奴らはドイツ帝国領である西ポーランドで勢力の拡張は不可能だが維持する事が出来る。ノイブランデンブルク王が消えない限り我らは安眠出来ぬ。そこで君に1つ提案がある。私と一緒にノイブランデンブルク軍を完膚無きまでに叩こうじゃないか。ノイブランデンブルク勢力が消えれば私と君の領土は地続きになる。どうかね?)
ウキウキした口調でレイシアはそう言う。口調からして俺が提案を100パーセント吞む前提と考えているようだ・・・・・・・
もちろん答えはーーーーーー
「断る」
(な、何故だ? 君にとっても北王は脅威となっているはずだ。この提案のどこにデメリットがあるのだね?)
「俺らはやっとの思いでオーストリア=ハンガリーとバルカン半島を平定したんだ。経済は勿論の事、軍事もそれなりの打撃を受けていて師匠に割くような余力はないって事だ」
(う~ん。私の仕入れた情報が嘘だったのか・・・・・・・経済は右肩上がりと聞いているが?)
レイシアの言うとおり経済は右肩上がりで上々だ。金本位制を脱退しハンガリーの王族別荘地を解体、跡地に中央銀行を設立し新たな紙幣を発行し管理通貨制度を採用した。シャルロットが治めるブレーメン及び西プロイセンも同じ貨幣地域の為、帝国領の西ポーランドの裏ルートを通って交易をしている。莫大な利益は市民に還元されオーストリア=バルカン帝国は欧州最大の経済国へとのし上がった。
「まだまだなんですよ。戦争をやるには拙いんですよ。1回の戦争で財政が崩壊するような事が起きては元も子もないんです。正直な話、帝国には不干渉で貫きたいんです。自国が破綻するような戦争はやりたくない」
(君の気持ちは分からんでもない。戦争は莫大な費用がかかるし、例え戦勝国になったとしても残るのは借金か荒廃した領土だ。だがなそんな戦争を我々は求めているのだよ。数多の英雄の話や武勇伝を聞かされて育った我々の世代は戦争に憧れを抱いているんだ。連合王国にしろ連邦にしろ王国にしろ同じ事が言えるのだよ・・・・・・・・・)
レイシアはため息をつきながら俺を諭すように言う。
「ハァ・・・・・・・ノイブランデンブルク勢力は俺らにとって大した脅威じゃない。俺らが一番の脅威としているのはロシア=ソビエトと大日本帝国・欧州本部だ。ドイツ帝国の内輪揉めに首を突っ込んでいる暇はないんです師匠」
(そうか・・・・・・そこまで君が言うなら分かった)
ガチャ
俺がそう返答するとレイシアは残念といった感じで電話を切る。
明日も知れぬ乱世。自己中心的になるのは当たり前だ・・・・・・・




