第18話 撤退開始
機巧暦2140年5月・ドイツ帝国ズール・ノイブランデンブルク軍
「アハハッ!! カーチス大将、敵は我々を恐れて一歩も進軍で来ていません。このままいけば奴らの補給が切れるのは明明白白。それに対して我らは後方に無限とも言える補給がある。勝利は我らのモノと決まったようなものですな」
「これで勝てばカーチス様は次期宰相ですな。いや~流石です。我々はカーチス様についていきます」
「各々方の言葉は有難いが・・・・・・ついていくのは俺ではなくアルフレート=フォン=リリィ様だ」
レーゲル率いるフランクフルト軍が動かない為、暇を持て余したノイブランデンブルク軍の諸侯らは昼間から集まり酒をあおっていた。もちろんカーチスも酒を飲んでいて既に酔いが回っていた。
「相変わらずリリィ様に御執心していますな。やはりリリィ様に惚れているのでは?」
「ば、バカいうな。あの方を皇位につければわれらは一生安泰というもの」
リリィによる魔眼の影響で半ば洗脳状態にあるカーチスそう言う。
そんな中ーーーー
「カーチス様!! ドレスデンの集積地を守っていた兵がお目通りを願いたいと申しております!!」
「なんだ・・・・・・折角、酔いが回ってきたなんだが」
「カーチス様、ここにいる諸侯らは何をしに戦場にいらしたんですか?」
宴も盛り上がってきた頃、警備兵がカーチスの前に駆け込んでくるも当のカーチスや諸侯は警備兵の話を聞くどころか追い払おうとする。
「我らは軍の指揮官として兵の指揮や監察の義務があるのでな・・・・・・・」
「恐れ入りながら我々兵士らの目からはそうは見えません。兵士らの殺し合いを肴に酒を飲んでいるにしか見えません。まるで古代の剣闘士を観戦する貴族のようとでも言いましょうか・・・・・・」
「何!?」
「たかが警備兵の分際で意見するのか!?」
「身の程を弁えてからものを言え!!」
「待て。アンタの物言いには怒りが覚えるが正論でもある。ドレスデンで何かあったのか?」
警備兵の言葉に逆上しかけるカーチスだったが怒りを静める。周囲で酒盛りしている諸侯も怒り出すがカーチスが止める。
「それは集積地の守備兵にお聞きしてください。ちょうど外のいるので呼んでまいります」
「うむ」
その後、警備兵はテントから出ていき数分後に兵士を伴って戻ってきた。
「カーチス将軍・・・・・・・も、申し訳ございません」
「そ、その姿はどうした・・・・・・・・!?」
目の前に現れた兵士の姿にカーチスは絶句する。兵士が着ている軍服は所々が焼けこげ背中に羽織っている白いマントも破れズタボロになっている。片目や頭からは血を流している。
「ドレスデンが敵の手に落ちました・・・・・・・守備隊は壊滅し辛うじてここまで逃げてこられたの私だけでございます」
「ドレスデンは堅牢だったはずだが・・・・・・・」
「夜襲により不意をつかれ、さらに味方から裏切りがでまして内部から放火されました」
「レーゲルめ!! 諸侯らよ!! 直ぐに目の前にいるレーゲル軍を踏み潰すぞ!!」
「お待ち下さい!! カーチス将軍」
「ああ!?」
酒の入ったグラスを床に叩きつけ勢いよく立ち上がって叫ぶも警備兵に止められる。
「ドレスデンを失った今、我らは手持ちの弾薬や食糧しかありません!! 戦闘して勝てたとしてもその頃には弾薬や食糧はとうに尽きております。さらにこの近辺は山間部で村や街もありませんから現地収奪も出来ません!!」
「な、ならばどうしろと言うのだ!!?」
「撤退を命じて下さい。我ら近衛部隊が敵の追撃を防ぎます。将軍の為なら死をも厭いません。我が近衛隊長も常日頃そう話しています」
「・・・・・・・・申し訳ない。俺の失態にも関わらず・・・・・・我らの為に頼む」
警備兵は跪くとそう言う。完全に覚悟を決めた瞳だった為にカーチスや諸侯も反対せずに全軍をまとめる翌日に撤退を開始した。