第2話 ポーランド侵攻
機巧暦2139年9月・ポーランド共和国
ポーランド共和国に到着すると国境線の共和国・守備隊を電撃戦で打ち破る。その後、市街地へ侵攻を開始した。
「機甲部隊! 突撃せよ!!」
「航空部隊も機甲師団を援護せよ!!! 突撃開始!!!!」
「君の部隊も出番だ。暴れてくるがいいぞ」
「ああ 任せろ」
レイシアから命令を受けた俺は愛銃を手にすると大型輸送機に乗り込む。俺に続いてほかの中隊の連中も乗り込む。
「大尉、我らは遊軍を上空から支援するのが今回の任務ですか?」
「ああ、機甲部隊では狭い街の中心には攻め込めない。外からポーランド共和国の本軍が来れば機甲部隊は挟撃される。その前に我らの部隊で制圧するんだ」
一時間程で共和国の国境線から首都上空へと到着した。地上にいる機甲部隊は敵のバリケードを突破に成功したようで建物の上には帝国の旗が翻っている。しかし首都の中央部は守りが堅かったらしく機甲部隊は足止めをくらっていた。
「でも大尉、共和国の守備隊は殲滅したらしいですし、外からの援軍って言っても連邦くらいですよ? 連邦は国土も広い、兵を総動員するにも時間がかかりますから援軍による挟撃の心配はないですよ」
緑色の髪が特徴的なグレイス=シェフィールド中尉がそう言った。
「・・・・・・」
動くのはロシア=ソビエト連邦が先か・・・・・・それとも海峡を挟んで先にあるイギリス連合王国が先か・・・・・・・
ポーランド共和国もそうだが、フランス共和国とドイツ帝国の間にあるベルギー王国も永世中立国であり、その身の安全はイギリス連合王国が保障していた。もし二カ国に攻めこむ国がいれば連合王国は即参戦するということになっていた。
「四面楚歌の状態でどう勝つつもりなんだか・・・・・・」
「大尉、目標地点に着きました。ハッチが開き次第突入します」
「わかった。よし! お前らいくぞォォォォ!! 勝った暁には俺の財布で豪遊させてやらァァァァ!!」
「いえェェェェい!!」
「おォォォォ!!」
「さすがだぜ!!」
「大尉・・・・・」
勝てば莫大な金が懐に雪崩れ込んでくるのだ。戦争は兵士や将校にとって一攫千金のチャンスでもあるのだ。
ハッチが開き俺が真っ先に飛び降り、それに続いて仲間たちも飛び降りた。
「全員 魔術宝珠を解除せよ!!」
「「「了解!!」」」
俺は胸元に装着している赤色の宝珠のピンを引き抜いた。宝珠は眩い光を放つ。
ドイツ帝国陸軍・第一航空戦隊ーーーーそれが俺の所属する部隊だ。
航空戦隊と言っても航空機をもつ部隊ではなく魔術宝珠という魔術機器により空を飛びながら戦う部隊だ。
航空機はあるが威力も命中率も低いため空中戦の主力として使えるモノではなかった。しかし侵攻するためには制空権を得ることが絶対条件・・・・・・・・そのため航空機の機能向上と量産体制が整うまでの穴埋めとして航空戦隊が編成された。今のところ第一航空戦隊の100人と第二航空戦隊の100人が主力として編成されている。
「抵抗する者は容赦なく撃ち殺せ! それが例え女子供であってもな!!」
「了解!」
上空から銃弾を雨あられの如く都市に撃ち込む。銃弾と言っても魔術宝珠の効力で小銃でも2倍くらにいは威力があがっている。
街は次々と炎上していき上空には人間が焼ける臭いと木材が焼ける臭いで鼻が曲がりそうだ。
頻繁に対空機銃の音が鼓膜を破るかのように聞こえる。
「くっ 対空攻撃か・・・・・・ばらつきはあるが狙いは悪くないな。総員! 散開しろっ!! 纏まると対空機銃の餌食になるぞ!!」
航空機が主力ではないとは言えども対空装備は万全だった。上空にはキレイな花火が打ち上がる。当たれば無事では済まない”死の花火”だ。
「大尉、二航戦から”我らは護衛にあたる、一航戦は敵司令部を破壊してくれ。我らは貴官の部隊の護衛にあたる”との通信が入っていますがどうしますか?」
第二航空戦隊が周囲の敵部隊を引き付けるからその間に俺ら第一航空戦隊は敵司令部を頼むと言うことだ。
「二航戦の大尉は今回は俺らに手柄を譲る気か・・・・・」
上空には複葉機が飛んでいるが足が遅く第二航空戦隊の魔術士に次々と狩られていく。
・・・・・今が好機か
俺は敵の包囲を突破すると銃を真下の敵司令部に向ける。
「すべての業と悪に正義の鉄槌を・・・・・・っ!!」
バチッ! バチバチ! バチバチッ!!
目をつぶり引き金をひいた。銃口から飛び出した銃弾は凄まじい衝撃波を放ちながら敵司令部の中央を貫く。敵司令部は銃弾・・・・・・・というよりは砲弾に近いかもしれない。弾着した砲弾により司令部は大破炎上し次々と誘爆を起こし壊滅状態となった。
「ハァ・・・・こちら一航戦、首都・ワルシャワ司令部の制圧に完了」
口元に付けていた通信機にそう言った。敵司令部には大きなクレーターができ、後に焼け出された司令官が発見された。焼け焦げていたがなんとか勲章で指揮官だと判別ができた。
(こちら一航戦、ポーランド首都司令部の制圧に完了)
第一航空戦隊のグレイス=シェフィールド中尉は通信機から久遠柚希の報告を受けていた。
「中尉、大尉はなんと?」
「首都制圧完了とのことだ」
「さすがは大尉だ」
「うちの大尉なら当たり前だろ」
グレイスがそう言うと兵士の表情に安堵の色が浮かんだ。
(グレイス中尉、引き続き警戒を怠るなよ)
「了解」
グレイス旗下の第一航空戦隊・第二小隊《50名》はポーランド共和国とロシア=ソビエト連邦の国境地帯を警備していた。グレイス旗下はガチガチに警戒していたが連邦国が動くことは無かった。
その後、これ以上の兵の損耗は不利と判断したレイシア少将から撤退命令が下り、第二航空戦隊と第二機甲師団、第二砲兵大隊を守備隊として共和国に残してあとは全軍撤退した。
共和国の首都を制圧した第一航空戦隊・第一小隊《50名》だが、損耗が激しく生き残ったのは久遠柚希を除いて僅か5名だった。そしてその僅か5名も戦傷のため亡くなっ
た・・・・・・・・・
機巧暦2139年9月・ドイツ帝国帝都ベルリン
ドイツ帝国に戻ると半壊した第一航空戦隊は解体となった。しかし俺とグレイスの階級はそのままだった。
「失礼致します」
「そこに座りたまえ。戦場から戻ってきて落ち着かないのに早々に呼び出してすまないな」
「いえ・・・・・・・」
解体命令を受けてから二日後に俺はレイシアから参謀本部に呼び出されていた。
「やはり意気消沈しているな・・・・・でも落ち込んでいる暇はないぞ?」
「そ、それは・・・・わかってる。それで俺を呼び出したのは?」
「ポーランドにロシア=ソビエト連邦が攻め込み、第二航空戦隊が連邦についたのだ」
「二航戦は帝国を裏切った・・・・ということか?」
「まあ、そういうことだ」
レイシアは淡々とそう言った。
「第二航空戦隊はフランス共和国やロシア=ソビエト連邦の捕虜たちで試験的、実験的に編成された部隊だ。いつか裏切ることだろうとは思っていた」
「・・・・・・・・話が見えない。どういうことだ?」
「参謀本部は真の敵は連邦国ではなくフランス共和国だと言っているのだ。だからロシア=ソビエト連邦と敵対することは参謀本部としては避けたい。
でも現実には敵対してしまったわけだ。条約の更新を帝国が一方的に蹴ってしまったのだからな・・・・・・そこで参謀本部が考えたのは条約の更新をすることは出来ないが、新たに条約を結ぶのはどうだろうと・・・・・・・・
帝国は新しい条約締結のために中立国のポーランド共和国を餌にしたわけだ。ポーランドを占拠し連邦に圧をかける。そして連邦は圧に耐えられなくなりポーランドに攻め込む・・・・・・・」
「そうか・・・・・帝国はポーランドを東西分割し、西を帝国に東を連邦にして永久不可侵条約を結ぶわけか・・・・・・・これで東側を心配する必要はなくなりフランスに兵を割けるわけか」
俺がそう言うとレイシアは満足げに頷いた。
「つまり第二航空戦隊は帝国に屈するフリをして共和国と連邦国の先兵として働いたのだよ」
「・・・・次はフランスとの戦争か。俺はどうすれば・・・・・武器も無い、仲間もいない・・・・・」
武器は発射した銃弾の衝撃に耐えられずバラバラに砕け散っていた。
「そうだな。君はまず部隊編成が先だったな。至急応募をかけるとしよう。新兵の訓練は君に任せる。頼むぞユズキ大尉!!」
レイシアは去り際に俺の肩を叩いた。その後、レイシアの言う通りポーランドとの停戦後にドイツ帝国とロシア=ソビエト連邦国との間に永久不可侵条約が結ばれた。