第16話 同情
機巧暦2140年5月・ドイツ帝国ハンブルク・宮殿応接室
「さぁ我らの同盟に乾杯しようではないか」
「そうね」
同盟締結の書類にサインしたレイシアとシャルロットは酒を飲んでいた。
「良き同盟関係になる事を祈って乾杯」
「えぇ、乾杯」
カンッ
シャルロットはワイン、レイシアはウイスキーが入ったグラスに口をつけると中身を飲み干す。
「ふぅ~、しかしながら解せぬ事があるのだ・・・・・・・・」
「ん? 解せぬ事?」
「失政や戦争によりこの国の経済はボロボロの状況だ。さらに自国貨幣は紙クズとなっているだろう? その状況下で貴殿が治めるブレーメン地域とバカ弟子が治めるオーストリア=ハンガリー地域は経済成長をし続けている・・・・・・・・何故だ?」
ドイツ=フランス戦争以降の度重なる失策と海外植民地消失、さらにフランスやイギリスへの戦後賠償支払などでドイツ帝国経済は地に堕ちた。さらに国内が戦場となった事でありとあらゆる製造工場が破壊された。その為品不足による物価高騰でインフレが起こっていた。
「ブレーメンは管理通貨制度を取り入れたの。金本位制から離脱したのよ」
「管理通貨制度?」
「金本位制では金の保有以上の貨幣を発行する事は出来ないわ。でも財やモノは生産され続ける。この不況下では尚更、貨幣を発行して財産やモノをつくる必要があるわ・・・・・・金本位制ではそれは不可能。でも金の保有数なんて無視して貨幣を発行する事が出来る制度があったら素敵じゃない?」
シャルロットはニヤニヤして嬉しげにそう言う。対するレイシアはタバコを手で弄びイライラしている。
「金には絶対的な信用がある。貨幣が紙クズになったら何で代用するつもかね? 金に代わる新たなモノでも見つかったのか?」
「金に代わるモネなんて無いから国の信用が絶対になる。国の信用の元、貨幣を発行し市中に流すのよ。市中に流れた貨幣の管理は銀行に任せているわ。少なければ刷る。多ければ回収するっていう算段よ」
「・・・・・・・・そのシステムは誰が考えたのかね? 貴殿が考えたモノではのではないのだろう」
「ふん! 腹立つ物言いね。でも正解よ。これはユズキが考えたモノ。ブレーメンの統治システムを西プロイセン一帯に拡大させたのよ」
「国の信用かぁ・・・・・・今の我らには不可能だな。我々軍人はベルリンやポツダムを戦果に巻き込み挙げ句の果てに捨てたのだ。臣民からの支持は無いにも等しい」
「確かフランクフルト政府は経済復興の為にフランスの貨幣を使っているんだって聞いたわね。ノイブランデンブルクはロシア=ソビエトの貨幣だったわね」
「全く情けない話だよ。他国の貨幣を使うハメになるとはねぇ。世も末だ。国を愛しているからこそやり切れぬ思いで沢山だよ・・・・・・・・・・」
レイシアは目を細める。
「・・・・・・・・・えぇ私にも貴女の気持ちは分かるわ」
フランスから追い出され泣く泣くドイツ帝国に縋り、そして流れつくように西プロイセン地域の女王となったシャルロットはレイシアに同情するように呟く。




