第15話 ブレーメンとハンブルク
機巧暦2140年5月・ドイツ帝国・ハンブルク・宮殿応接室
「よく来られたな。さぁ席に座りたまえ」
「・・・・・・・・・」
レーゲルとカーチスがズール周辺の戦場で膠着状態になっていた頃、ハンブルクではアルフレート=フォン=レイシアが動き出していた。レイシアはブレーメン王のシャルロット=アルチュセールを自身の宮殿に招いていた。
「ブレーメンはどうだ? 上手くいっているのか?」
「貴女の弟子が下地を作ってくれたお陰で順調よ」
「ふっ、そうか。それは何よりだ」
シャルロットの言葉にレイシアは素っ気なく呟く。
「怒らないのね。私が貴女の弟子の領地が奪ったのに・・・・・・・・」
「今更、怒っても仕方あるまい。貴殿をブレーメンの地に招き入れたのはバカ弟子だ。バカ弟子も人を信用しすぎた結果こうなったと理解しているはずだ。アイツにとって良い勉強にはなっただろうと私は考えている」
レイシアはタバコを吹かしながらそう言う。テーブルの上には灰皿があるが吸い殻で溢れかえっている。
「そう。それで私を呼び出した理由は何かしら?」
「第三者から見てこのドイツ帝国の状況をどう見ているかを聞きたくね。見ての通り帝国は瓦解しているし今まさに北と南でお祭り状態だ」
「絶好の狩り場と言ったところでしょうね。今帝国に雪崩れ込めば望むモノは全て手に入りますよね。国境の守備隊は内地の争いに引き抜かれて手薄になっているわ。残念だけれど今の帝国に敵を追い返せるだけの力は皆無よ」
「なら何故、連邦や王国は攻めてこない?」
「それは御自身がよく知っておいででは?」
シャルロットはやれやれという表情を浮かべる。
「?」
「分かっていても分からないフリをするのは貴女の常套手段とよく聞きます」
分からないと小首を傾げるレイシアに対してシャルロットはため息をつく。
「はぁ~ 貴女という人は・・・・・・・・・まさかだと思いますがこの状況を一番望んでいたのは貴女では? 今のところ勝っても負けても無傷なのは貴女なんですよ」
「ノイブランデンブルク王が滅んでくれればバカ弟子が統治するオーストリア=ハンガリーと直接の連絡路が出来る訳だ。王国や連邦といった列強が帝国にトドメを刺さないのはオーストリア=ハンガリーがいるからさ。奴が事実上のオーストリア=ハンガリー王になってから墜ちていた国力が復活しつつある。それどころか団結力が増し生産力が上がっているな。列強は警戒して手出ししないだろう・・・・・・・」
レイシアはそう言うと吸い終えたタバコを灰皿に捨て軍服の胸ポケットからタバコを取り出すと火をつけまた吸い出す。
「やっぱり全て知っているんじゃない。それでそろそろ本題に入ってくれるかしら? 私をわざわざ呼び出した本当の理由は?」
「ふぅ~ ノイブランデンブルク王を潰す為に私は兵を東進させるつもりなんだが。後顧の憂いがあっては満足な戦争も出来ん。これで大体の意味は分かるだろう?」
「私達、ブレーメンとの同盟・・・・・・・ですか」
シャルロットは顔をしかめる。
「同盟とまではいかないが不戦条約くらいは結びたいのだよ私は」
「分かりました。不戦条約ではなく同盟を結びましょう。私たちはフランスに貴女は北部にそれぞれの事情がありますから」
シャルロットの返答にレイシアは満足げに頷く。




