第13話 悪役
機巧暦2140年4月・ドイツ帝国自治区・ギリシャ・アテネ
「・・・・・・・・俺の歩んでいる道は果たして正解なんだろうか」
「自らの信念で突き進む道に正解や不正解はないぞ」
「?」
会議室に取り残された康介がボソッと呟くと返事する者がいた。康介は俯いていた顔をあげる。
「久しぶりだな」
「新田中将・・・・・・・・なぜアンタが此処に?」
黒い軍服に白いマントを羽織った出で立ちの新田義明は康介の問いに笑った。
「アハハ此処では話しづらい事もあるだろう? 料亭で酒でも飲みながら話そうじゃないか」
「あ、はい」
アテネの日本街料亭ーーーーー
「さぁ飲め」
「・・・・・・・・・」
コトッ
康介は酒を注がれた杯を持ちながら口をつけるなくそっとテーブルに置く。
「なんだ? しばらく見ない内に酒がダメになったか?」
新田は微笑みながらそう言うが康介は沈痛な表情で俯いていた。
「新田中将は俺がブダペスト王に降伏した事をご存じのはず。俺と新田中将は敵対関係にあります。何故、俺を酒の席に招いてくれたんですか? 本当であれば俺を殺すはず・・・・・・・」
「お前が降伏した事も公国と縁を切ろうとしている事も知っている」
「この場で俺が新田中将を刺す事も出来る。危険を承知で俺を誘ったんですか?」
「変に人を信用する君は私を殺せはしないという事を知っているから誘ったのだよ。そうだろ?」
新田の言葉に康介は苦虫かみ潰したような表情を浮かべる。まさに新田中将が言うとおりだ。弱者は潰されると考え、平穏と仲間を守ると心に決めた柚希と違い康介は何処か甘ちゃんでこの世界に適応出来ていなかった。
「・・・・・・・・・」
「アハハッ図星と見える。まあ最後にこうして弟子と酒を酌み交わしたかっただけだ。邪推はしないでくれたまえ。それでこれからはどうするつもりかな? 帝国に従属するか、それとも自治区なのを良いことに勢力拡大をするか」
「部下の統制も真面に出来ない俺が勢力拡大出来るとでも思っているんですか?」
康介は酒を飲みながらそう言う。
「今の状況だと出来ないな。柚希をお前が倒せば部下らも少しは見る目が変わってくるかもしれんがな」
「無理だ。アイツを倒すなんて不可能だ。只でさえ最強の魔術師と巷では言われいるんだ。俺が敵う相手じゃない」
「柚希が最強の魔術師というのは嘘だと俺は思っているんだがな。魔術師としての実力は中の下だ」
「えっ? でも皆が最強だって・・・・・・・」
康介は口をあんぐりと開け呆然とする。そんな康介に新田は淡々と話し出す。
「柚希のフランスでの魔術師との戦いは聞いたことあるか?」
「いや」
「フランスには魔術師が2人いてな。いずれも女性で姉妹なんだ。1人は剣の魔術師・ユリウス=アルテミス、もう1人は弓の魔術師・ユリウス=シルティアだ。モンスの戦いかで彼女らと柚希は一戦を交えたと聞いている」
「俺と同じ剣の魔術師・・・・・・・・」
「そう。君と同じ協会認定の魔術師だ。その魔術師相手に柚希は戦う事になった訳だが、結果は弓の魔術師・ユリウス=シルティアを瀕死に追い込んだものの、剣の魔術師・ユリウス=アルテミスには及ばず戦わずに退いたそうだ。何故、アルテミスと戦わなかったのか分かるか?」
「魔力不足・・・・・ですか?」
「そう。弓の魔術師との戦いにより魔力不足となりやむを得なく撤退。攻撃主力の剣の魔術師と防御主力の魔術師とでは防御主力の魔術師の方が明らかに劣勢になる。まあ柚希は盾の魔術師ながら攻守両方に優れている・・・・・・・・」
「なら俺は勝ち目はないじゃないですか!?」
康介がそう言うと新田はニヤリと笑う。
「勝ち目はある。柚希の弱点は盾の魔術師である事だ。守ることが主力で攻撃には不向きだ。戦いというのは守るだけで勝てる訳じゃない。攻撃も必要だ。さらに攻撃型魔術も持ち合わせているらしいが防御魔術との併用は出来ないみたいでね。攻撃する際は守りを捨て、守る際は攻撃を捨てなければならない」
「魔力不足になるまで振り回せば勝機はある・・・・・・という事か」
「剣の魔術師の攻撃力は高い。一撃一撃の攻撃を受ける内に相手は疲弊していくはず。相手の態勢が崩れた所を隙を突いて一撃かませば倒せるだろうよ」
「・・・・・・・・・・・」
「まあ自ら道を切り開くのは君次第だ。帝国に従属し奴隷として一生を過ごすか、それとも独立勢力として帝国を呑み込み王として一生を過ごすか・・・・・・私がとやかく言うことではあるまい。何がともあれ君が今やるべきことは家臣を従わせることだ。従わせるには柚希を倒すことしか道がない。やらなければ家臣に反乱を起こされて死ぬぞ」
新田そう言うと杯に残っていた酒を飲み干す。
「柚希がこの世界の主人公なのなら君は悪役になれ。主人公になれないのであれば主人公の壁となれ」
「ああ、分かった」
康介は頷いた。