第12話 ギリシャの瓦解
機巧暦2140年4月・ドイツ帝国自治区・ギリシャ・アテネ
「さぁて揃ったか?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
重苦しい空気が流れる中、ギリシャ帝国自治区の統監府にて緊急会議が開かれた。康介の左右には姫路准将、白河准将、高田准将、村上准将、館林准将がそれぞれ椅子に座っている。姫路准将以外はアルフレート軍によるバルカン半島征伐で戦死した准将らの遺児らである。彼らは親の意思と階級を受け継いだ若き精鋭だ。
柚希のブダペスト王即位を見届けた康介は即位式後に行われたパーティーには出席せずに荷物を纏めてそのままバルカン半島ギリシャのアテネ統監府へと戻っていた。柚希が皆からチヤホヤされる所を見たくないという理由もあったが何より一番の大きな理由は大日本帝国・欧州本部の件だった。康介は不本意と言えどもドイツ帝国に降伏した。それにより欧州本部からは裏切り者と見なされ討伐される可能性があった。さらに帝国に降伏したがその地盤は無く一からやり直しの状況だった・・・・・・・・・
「榊原少将なんです? 急に我々を呼び出して」
「俺ら忙しいんっすよ。早く終わらせて下さいや。少将」
「・・・・・・・っ」
足を放りだしてだらしなく座っている館林准将がそう言う。
「俺は不本意ながらドイツ帝国に降伏したわけだがそれによって欧州本部・・・・・・まあマルタ鎮守府と敵対関係となった。経済拠点であったルーマニアと防衛拠点であったモンテネグロをドイツ帝国に奪われた今我々の力は無いも等しくなった。税収も消えたことにより軍備を増強する事が出来ない。さらに新たな経済政策を行おうにも資金不足だ。この窮地をどう切り抜けるか意見が欲しい」
「ドイツ帝国に降伏したのはお前さんじゃねぇか? ならお前さんが勝手に撒いた種だ。お前さんが自らの力で解決してみろや」
「確かにそうだな。あの時少将が徹底抗戦を言いだしていりゃ。俺らも少しは協力してやったのにな~。まさか降伏を出すたぁ・・・・・・とんだ腰抜けを頭にしちまったぜ」
白河、高田の両准将がそう言う。これに対して姫路准将は特に咎める事もしなかった。
「・・・・・・・・各准将らの気持ちは分からなくもない。ドイツ帝国に親を殺され内心は仇討ちをしたいのだろう? だがモンテネグロでの決戦により戦力の大半を失った俺らに徹底抗戦は不可能だったんだ。腰抜けの頭で申し訳ない」
「ちっ!! 頭下げる暇があったら、ちったぁ帝国にどう一矢報いるか考えろや!! うだうだしているとお前さん殺して頭すげ替えるぞ」
親を殺されて内心煮えくりかえっていた准将らは康介に罵声を浴びせる。康介も何も言えずに黙るしかなかった。彼らは自ら百人から千人規模の私兵を持っていて下手すれば此方が危うかった。通常は国が軍を管理するが准将らは各々で私兵を組織して管理していた。親の代では私兵制度の根付きはなかったが子の代で急速に拡大発展した。さらに私兵らも反グレが多く、それを束ねる准将(館林、高田、村上、白河)も倫理観なく素性最悪という有様でギリシャの治安は急速に悪化していた。
「・・・・・・まあ此方も考えなしでは無くて資金面はアルフレート公に頼ろうと考えているのだが。マルタ島からの資金援助は得られないのは火を見るより明らかだからな。柚希もいつでも頼ってくれって言われているし」
「お前さんがアルフレートの野郎に頼るって言うんだったら俺らは好きにやらせてもらうわ。俺らはアルフレートの野郎の下につくつもりは毛頭ないしな」
「うむ」
「館林の言うとおりだな。俺らはシマとってそこから上がる利益で私兵を食わせいく事が出来りゃ充分なんでな。少将は少将で好き勝手にどうぞ・・・・・・まあ親の仇討ちが出来ねぇのは悔しいけどな。こんな他人の臑を囓ろうなんて野郎に期待したのが間違いだったぜ。じゃぁな少将」
白河はそう言うと会議室から出ていく。それに続くように各准将も退席していった・・・・・・・・・
「降伏したのが間違えだったのか・・・・・・・・最善の方法だと思ったのに」
誰もいなくなった会議室に取り残された康介は一人そう呟く。




