第8話 挙兵
機巧暦2140年3月・フランクフルト・宮殿近衛府
「陛下よりノイブランデンブルク征伐の命が下された。即刻、軍を編成してドイツ北部方面まで出向かねばならなくなった。皆も準備するように!!」
「宰相、お言葉ですが北王の規模をご存じで?」
「確か70万から100万、噂だと300万とか言われているな。それがどうした?」
近衛府長官がレーゲルの言葉に眉をひそめる。現近衛府長官はレーゲルが第一師団長だった頃から支えていた側近だ。レーゲルが宰相の座につくと今までの功績を認め近衛府長官に命じた。
「帝国が出せる軍は僅か5万から10万が限度。それに比べノイブランデンブルク軍は最低でも70万の軍は出せると聞きます。この戦力差でどう勝つおつもりか」
「戦いは数ではない。その事はユズキが証明しているだろう。タギア南方での戦いでユズキは寡勢にも関わらず敵の大軍を包囲して撃ち破ったと聞く」
「・・・・・・・・・」
「数が多ければ多い程、統制が難しくなるし隙が生まれる・・・・・・優柔不断で何処か抜けているカーチスが大軍を統率出来るとは思えない」
「流石は士官学校時代からの親友・・・・・・よく知っていますね」
「ふん」
近衛府長官がそう言うとレーゲルはバツが悪そうな顔をする。どういう経由にしろ親友と干戈を交える事になったレーゲルの心中は複雑だった。
「私にも魔術があれば大軍を一捻りに出来るのに・・・・・・・な」
「それはそれで別の苦労をしそうですが・・・・・・・魔術師には魔術師の苦労がありますから。ユズキを見ていた貴方には分かるでしょう?」
「強大な力故に本来の力が出し切れず自らが傷つく・・・・・・まったくイヤな力だ」
士官学校時代は魔術についても少し学んでいたレーゲルはそう言う。
「ハァ、今はそんな事はどうでもよい。近衛府長官、我ら帝国軍は総軍5万で賊軍を迎撃する。よいな!! この戦いで帝国がまだ弱ってなどいないという事を諸国に見せつけろ。負ければたちまちフランスやらイギリス、ロシア=ソビエトやらが潰しにかかってくるからな」
「分かりました」
ーーーードイツ帝国・ポーランド国境
「カーチス様、フランクフルト政府が開戦を決意しました」
「そうか。フランクフルト政府が・・・・・・・か。レーゲルは本気で俺を潰すつもりなのか」
「宣戦布告してきた以上、こちら側も受けて立たなければなりませんね? まさか尻尾を巻いて逃げるなんて事はないですよね?」
参謀のアルフレート=フォン=リリィはアルベルト=カーチスに対して釘を刺す。彼女の魔術である魅力が効いている以上カーチスに否認する事は出来ない。
「逃げはしないさ。我が軍は最低でも70万出せる。フランクフルトの兵数なんて僅かだろ」
「フランクフルトは改革により兵数を僅かながら増やしているみたいですが国境の虫ケラ共を排除し続けた我が精鋭軍の敵ではありませんね」
「うむ。直ぐに作戦会議を開くから将を集めろ。作戦会議の後、南下するぞ旧都に向けてな。ベルリン周辺でフランクフルト軍を迎撃する事になる」
「分かりました」
ポーランド方面を固めていたカーチスの元にはポーランドの有力貴族やプロイセンの貴族らが集まっていた。その為、戦争する為の資金は潤沢にあった。




