第19話 オルレアンの戦い
機巧暦2139年10月・西フランス軍
「北フランヌも守りの態勢にはいったみたいですね。我々はどうします?」
「守りを固めろ。帝国軍はモンスで大半の戦力を失ったが依然まだまだ強い。後方を壊乱させて奴らが弱ったときに大攻勢をかける。それまでは動くな」
「わかりました」
西フランス軍を率いているシャルル=サンソン陸軍大将は側近にそう命を下した。
「それから・・・・・・・・・この第一師団《2万》の半分をパリの南にあるオルレアンにまわせ」
「え? パリの南方・オルレアンは南フランス軍が守っていますから、わざわざ自軍を割く必要はないかと思いますが・・・・・・・・・・」
「警戒して損はないだろ? アルテミスとシルティアの二人を向かわせろ。あの二人なら大丈夫なはずだからな」
「わ、わかりました・・・・・・・・・そのように手配しておきます」
「うむ。よろしく頼む」
この頃、西フランス軍と北フランス軍には共通の不安要素があった。それは南フランス軍のことだった。軍備も兵力も劣っている状態で果たして帝国軍を防ぐことができるかのかと・・・・・・・・・・その後オルレアンに二個旅団《1万》が配備された。築かれていた要塞には戦艦に搭載されるはずだった38㎝主砲3基が移設された。
機巧暦2139年10月・北フランス共和国オルレアン
「お姉ちゃん、準備どう?」
「問題ないわ。もうすぐ列車砲も到着するしね」
「80㎝列車砲だっけ?」
「そう。わずか1発の砲撃で街が廃墟になる代物よ」
西フランヌ軍の陸軍中将・ユリウス=シルティアは武器を整備しつつ同じく陸軍中将・ユリウス=アルテミスに話しかける。二人は姉妹でアルテミスが姉でシルティアは妹だった。そして”元”ドイツ帝国所属・第二航空戦隊《二航戦》の魔術師だ。
「アルテミス中将!! ただいまサンソン大将より伝言を預かってまいりました」
「?」
「少し落ち着いて話したらどうか? で、指揮官様はなんと?」
駆け込んできた伝令兵にアルテミスは水の入ったコップを渡した。よほど喉が渇いていたのか伝令兵は水をがぶ飲みする。
「ハァ ハァ ハァ あ、ありがとうございます。それでサンソン大将からの伝令なのですが、南フランス軍が・・・・・・・・・ドイツ帝国に寝返りました。偵察兵によるとこのオルレアンを攻略地点にしたらしいです」
「寝返った!?」
「まあ寝返るのは当たり前か・・・・・・・・・・・北フランスはベルギー王国という緩衝地帯があり西フランスにとっては北フランスが緩衝地帯にあたるわ。それに対して南フランスには緩衝地帯がなく直接ドイツ帝国と刃を交えるしかないわけね・・・・・・・・・・資源も技術もない国が少しでも生き残る道を見つけるとしたら私たちのような弱者ではなく帝国のような強者につくだろうね」
「お姉ちゃん冷静に分析してる暇なんてないよ? すぐに用意して迎え撃たないと」
「シルティア、戦争において大切なことは情報よ。情報収集を怠っていては戦争に勝つことなんて出来ないわよ? 敵を知り己を知れば百戦危うからずよ」
アルテミスは妹のシルティアにそう言った。シルティアは頷いた。
「で、敵の数と装備はどの程度?」
「はい。規模は二個師団《4万》で装備は旧式銃で機関銃や戦車も見当たりません。二個師団のうちの半数は騎馬隊です」
「・・・・・・・・・・奴ら正気なのか? 一個師団《2万》が旧式銃を持たせた歩兵で、もう一個師団《2万》は騎馬隊!?」
「前時代的な戦い方をやるつもりなのかな~?」
アルテミスは理解に苦しんだ。それと対してシルティアは戦闘狂らしく楽々と敵を血祭りにあげられるとウキウキしている。
「ほかの部隊はいなかったの?」
「いえ、周囲に別働隊がいるか偵察範囲を広げましたが見当たりませんでした」
「わ、わかったわ」
そしてーーーーー
「突っ込めぇ!!」
「このオルレアンを落とせばパリまで一直線だ!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」
アンリ=フランソワ陸軍元帥が率いる南フランス軍の二個師団《4万》が西フランス軍の二個旅団《1万》が布陣するオルレアンに攻撃を仕掛けた。オルレアンの都市は要塞化され当然ではあるが旧式の銃や大砲では要塞の城壁を破壊できず南フランス軍はやたらに死傷者を増やすだけだった。
それに対して要塞に籠る西フランス軍は新式の銃やら戦艦の主砲やらで南フランス軍を攻撃した。もはや戦いとは言えず西フランス軍による一方的な殺戮となった。
ーーーーーー南フランス軍
「フランソワ元帥、このまま闇雲に突撃していては死体の山を増やすだけです!!」
「・・・・・・・・」
「元帥!!」
初日の総攻撃が失敗をうけたフランソワは陣幕で将校から非難されていた。無策の状態で陣形も組まずにバラバラで攻撃させて死傷者を増やしたため非難をあびるのは当然だった・・・・・・・・・・
「元帥、このままでは部隊は全滅しますぞ。ここはドイツ帝国軍に援軍を要請したほうが賢明かと思います」
「第五師団と第六師団にか?」
「はい」
「帝国軍の第五師団と第六師団はエルザスとロートリンゲンを守ってる。我らに軍を割く余裕はないはずだ。軍を割けば守りが弱くなるし隙ができるだろう・・・・・・・・・やはり援軍は頼めない」
「それでは撤退してください」
「・・・・・・・・・ここで退けば臆病者という汚名が残る」
「フランソワ気にすることなんてないわ。汚名なんて戦果で洗い流せるわよ!!」
「!?」
「姫様!?」
フランソワと将校の言い争いに首をツッコんできたのは王宮にいるはずのシャルロットだった。
「頭が堅いというか、頑固というか・・・・・・・・・・まったく昔から変わらないわね。フランソワ」
「申し訳ございません。姫様・・・・・・・・・でも何故、姫様がこのような場所に?」
「この戦争はドイツ帝国の戦争だけど、私たちの祖国の自由と統一のための戦争でもあるわ。その自由と統一の旗頭である私が後方で指揮なんて有り得ないわ・・・・・・・・・だから私は前線で其方たちと苦楽を共にすることにしたのよ」
「さすが姫様・・・・・・・・」
「さてフランソワ退くわよ。このままではその将校の言う通り全滅する羽目になる・・・・・・・と言いたいところだけど退かせてもらえないみたいね。総員!! 頭を下げなさい!!」
シャルロットはそう言うと空を見上げた。
「なっ!?」
「姫様っ!! 危ないッ!!」
ーーーードッカーン!!!!
オルレアンはら放たれた一発の徹甲弾が南フランス軍の本営に着弾した。本営は一瞬で吹き飛ばされ。跡地には巨大なクレーターができた。
「姫様!! ご無事ですか?」
「ああ、なんとか・・・・・・・フランソワはどうなの・・・・・・・」
「な、なんと軽傷で済みました・・・・・・でも他の仲間が」
フランソワとシャルロットは奇跡的も軽傷で済んだが、他の軍勢の将校や兵士は吹き飛ばされた衝撃で即死していた。辺りには千切れた手足や頭部、肉片や骨片が瓦礫と一緒に散乱し目も当てられない状況となっていた・・・・・・・・・
「要塞から離れたこの本営が攻撃されるとは・・・・・・・・一体どんな大砲を入れているやら・・・・・・」
「考察は後よフランソワ。いち早くこの場から離れるわよ」
「わ、わかりました」
こうして南フランス軍は特に活躍することなく逆に大損害を出して南部要塞から全軍を撤退してしまった。