第6話 帝政廃止計画
機巧暦2140年3月・ドイツ帝国・フランクフルト宮殿
「レーゲル宰相、本当に良かったのですか? ユズキ少将のブダペスト王就任を正式に命じてしまって・・・・・・・」
「仕方あるまい。陛下が勝手に勅命を出された結果だ。却下などしようものならユズキ少将を慕っている者から何をされるか分からない。それより例の動きは進んでいるか?」
宮殿の執務室で書類仕事をしていた帝国宰相アーチゾルテ=レーゲルが側近の言葉に残念げに答える。
「陛下の周りにいた共産主義者や尊王攘夷者、さらに同調する者も逮捕致しました。逮捕者は全て牢獄に入れております。これで陛下の周りは孤立したも同然にございます」
「よくやった」
「ありがとうございます」
一時期は機能停止状態に陥ったドイツ帝国だったがレーゲルの徹底した移民流入により人手が増え少しずつ経済や軍事が復活しつつあった。しかし移民流入により帝国に害をなす輩が増えた事によりレーゲルは治安維持法を制定。側近のラインハルトを治安部隊の総指揮官に任命し共産主義者や尊王攘夷者を逮捕していった。さらに治安部隊は逮捕任務の他に皇帝アイネスの周囲にいる忠臣やレーゲルの政策に異を唱える者を捕らえ処刑していた・・・・・・・・・・・
「いよいよ最終段階に入りますか?」
「いやまだだ。ノイブランデンブルク王征伐を終えてからにしよう。北伐が成功すれば私は誰からも文句が言えないくらいの功績となる」
「なるほど。゛皇帝廃位゛はそれからと?」
ラインハルトがそう言うとレーゲルは頷く。
レーゲルは密かに帝政廃止を進めていた。帝国が分裂し各々が好き勝手にやるようでは皇帝は必要ないも同然だった。さらに皇室は国の代表にして常に優雅で絢爛にあるべしという考えにより皇室には莫大な費用がかかっていた。帝国衰退期に入っている今の時期に皇室費用の捻出は経済的に痛手でレーゲルは皇室を廃止する事で費用を浮かそうとしていた。
「しかし・・・・・・廃位となると反発が大きくなりませんかね?」
「皇室を慕っている者はいるかもしれないが、そういった輩は現実が見えていないという事だ。有名無実と化した皇室を解体する事でどれだけの利益が生まれるか思いつかないのだ。反発してくるであろうハンブルク王には話をつけてある。ハンブルク王としては陛下の身の安全が保たれるのであれば廃位帝政廃止でも構わないと言っていた。問題はブダペスト王だな・・・・・・・」
レーゲルはそう言うと葉巻を口に咥え火を付ける。
「噂によればブダペスト王は陛下に絶対的な忠誠を誓っているようで、恐らく我らが廃位に動けば必ず西進してくるかと思われます」
「ふぅ・・・・・・・・どうなることやら。私には私の正義がありブダペスト王には・・・・・いやユズキにはユズキなりの正義がある。同じ正義でも明らかに違う。私は民の足枷になるなら既存権威すら破壊してでも安定を図る正義。ユズキは既存権威を守りながら民の安定を図る正義・・・・・・ユズキのやり方は欲張りそのものだ」
「・・・・・・・・・ならばノイブランデンブルク王よりユズキを先に殺しますか?」
「いやノイブランデンブルクを先に征伐する。奴らの軍事力は侮りがたいからな」