第3話 式典の衣装
機巧暦2140年3月・ハンガリー・国都ブダペスト・宮殿控室
「ここで即位式をやるのか? 俺としてはブルガリアのブルガスでやりたかったんだが・・・・・・・・・」
「ブルガスには宮殿はありません。王となるものが粗末な野戦陣営で即位式を執り行うなど聞いたことがありません」
ブルガスでやるはずの即位式が急遽、ハンガリーの宮殿で行われる事になった。ハンガリーでやるように進言してきたのはオーストリア第3軍司令官で腹心の部下グレイスも同意見だった。その為、ブルガス港に3日間留まった後、即位式を見たいバルカン半島の民や文武百官を引き連れてハンガリーに向かった。
ハンガリーのブダペスト宮殿に到着後、俺は式典の準備をするためにメイドによって宮殿控室の一室に閉じ込められた。部屋には豪華な衣装や装飾が所狭しと並んでいる。俺は軍服を脱がされシャツ1枚になると鏡台の前の椅子に座らされる。
(俺はこれからどうなるんだ・・・・・・・・)
メイドが化粧道具を鏡台に置く。化粧道具にはマニキュアや紅い口紅やら女性用のモノが並んでいる。
(イヤな予感しか無いんだが・・・・・・・・)
「髪、梳かしますね」
「あ、ああ」
メイドは櫛を手に取ると俺の銀髪を梳かし始める。さらにもう1人のメイドは化粧を始める。
(女装させるつもりか)
「終わりました。目を開けていいですよ」
「ん? ああ、ありがとう」
1時間か2時間で化粧が終わった。
瞳を開けて鏡を見ると銀髪緑目の美少女がいた。皇帝のアイネスと瓜二つの容姿だ。2人並べばまさに姉妹か従姉妹に見えるくらいだ。
「元の素材が良いので・・・・・・・やはり女装させた方が正解でしたね。凜々しく可愛らしいですよアルフレート様」
(喜んでいいのか・・・・・・これは)
メイドはニコニコしながらそう言う。
「次は衣装ですよ。さぁこちらへ」
その後、着せ替え人形のようにされた結果、髪が銀髪と言うこともあり白いドレスが選ばれた。髪飾りは無難に蒼いヘアピンとなった。
「このヘアピン、花が細工しているのか?」
「はい」
ヘアピンの表面にカーネーションの銀細工が施されている。カーネーションには永遠の幸福という花言葉がある。
「キレイだな」
「気に入って貰えて何よりです。このヘアピンはヨーゼフ様からの贈り物なのですよ」
「それは・・・・・・・有難い。後で礼を言わないと」
一国の主からの贈り物。嬉しいがそれだけ期待されていると気付くとプレッシャーが重くのし掛かる。ドレス衣装に着替えると俺は姿見で自らの格好を確認する。
(だ、誰だ・・・・・・・・・・・コイツ)
美少女だ。紛うこと無き美少女・・・・・・・・正直、この姿を観衆に晒すのは恥ずかしい。
「さぁ行きましょう」
「ああ」
メイドから差し出された手をとると俺は式典の会場へと向かう。




